第1話 落し物
カチ・・・カチ・・・カチ・・・
時計の針の音だけが木霊するリビング。
「さぁ、みんな!今日もいい天気だね!」
カーテンを思いっきり開くと太陽の光がリビングを照らす。
俺は、優雅に朝食の食パンにジャムを塗って、ココアと一緒に食す。
そういえば俺って、いつから1人なんだっけ?
なんだか、ぽっかり大事な記憶が無い気がするんだ。
でも、思い出したらいけない。
本能がそう叫んでるようで、
「まぁ、いっか!」
いつもこうして考えるのをやめるんだ。
食器を片付け、スクールバッグとバッシューを手に学校へ向かう準備をする。
「じゃあ、行ってくるよ!!」
窓際に並べた3体のテディベアに手を振って、
俺は今日も変わらない一日へ繰り出した。
朝の登校時間、沢山の生徒に混じり門を潜れば・・・
「おはよう!!ん?元気がないなお前ら!!ちゃんと朝飯食ったか??はっはっは!!!」
やけにうるさい先生の挨拶から今日も長いスクールライフの始まりです。
おはようございます。
私は、高野陽葵
高校2年生。
平凡な毎日に満足してる系な普通なJKです。
うちの学校はこの辺では一番大きくて、私立という事もあり制服も結構オシャレな仕上がりになっている。
緑や色鮮やかなお花に囲まれたレンガ模様の道を真っ直ぐ歩いて行くと校舎に繋がっているのだけれど、
友達とお喋りしながら足早に校舎へ向かう生徒の中で、
私はこの道をゆっくり歩くのが好き。
「おっはよー!!!ひまりーー!!!」
「きゃっ!!」
お花を見ながら歩いていると、背後からいきなり抱きしめられ、衝撃に驚く。
「お、おはよー。相変わらず元気だね」
「ひまりがテンション下がりすぎなんだって!!」
衝撃にむせながら、苦笑いで答える私に、お構い無しなこの子は、私の唯一のイツメン。
鶴谷実咲。
一年の頃、名簿で前後だった事がきっかけで友達になった。
なんだかんだみさきがいるから学校が楽しいのは紛れもない事実だ。
私は内気でなかなか自分から友達が作れないタイプなのに対して、みさきはムードメーカー的存在。
見た目も、いかにもギャルらしいJKって感じで、
どうしてこんな私が隣を歩けているのか、自分でも全く検討がつかない。
しかし、みさきがいてくれるから私は周りと溶け込めている。
そう言っても過言じゃない。
そんなみさき。
最近は、恋というものを覚えたらしい。
それは、
たまたま私の隣の席になった、
青木琢斗。
確かに、見た目は背が高くてスラッとしていて、爽やか男子って感じ。他の女子にも人気があるからライバルは数多くいるのがネックだけれど。
2年生にして、実力が認められバスケ部キャプテンを務めている。
そりゃ、モテますわ。
みさきの朝から炸裂されるマシンガントークに誘導され、結局自分達も足早に校舎に向かう事になった。
教室に入るや否や更にテンションの上がるみさき。
「きゃー!琢斗様もう来てる!ひまりいーよねー、席隣だし、匂いとか嗅ぎ放題じゃん!?」
「匂いって・・・」
コイツただの変態である。
「ねぇねぇ!ひまり!今日琢斗様の部活姿見て帰りたい!」
「え!?」
まさかの!?
しかし、このキラキラしたみさきの目ときたら・・・
「分かりました・・・」
「やったぁぁ!!」
断れませんでした。
キーンコーンカーンコーン
放課後のチャイム。
今から部活動も開始となるため、
帰宅部の私とみさきは、お約束通りバスケ部の練習を見に体育館へ。
驚いたのは、同じようなギャラリーが他にも数名いた事だ。
「くぅぅう!何が琢斗ー♡よ!私の琢斗様を気安く呼ぶんじゃないわよ!雌豚ー!」
「み、みさき、ドードー。」
キュッキュッとなるバッシュの擦れる音と、
ボールを軽く操り可憐にゴールを決める青木くんの姿に響き渡る黄色い声。
「キャー!私の琢斗様!さいっこう!」
目がハートになる。
とはこういう事なのかな。
周りなんて目もくれずにはしゃぐみさき。
確かに、誰が見てもかっこいいと思う。
敵は多かれ、みさきの恋を応援したい。そう思った。
そんなこんなで部活が終わり、帰宅路を急ぐ2人。
もうだいぶ日が暮れて、お店やビルのネオンがキラキラしている。
「はー。かっこよかった!!ひまり!付き合ってくれてありがと!」
「全然いいよ!私も気晴らしになったしね」
私達は帰る方向が真逆なので、門を出ればすぐに別れてしまう。
「じゃあ、また明日ね!」
「うん!じゃあね!」
いつものように手を振り合って別れる。
賑やかさが途端に無くなるとなんとも切ないものだ。
久しく恋なんてしていない私。
みさきのぞっこんぶりがちょっと羨ましく思えた。
あの、天真爛漫なみさきのだいぶ乙女な姿を思い出すと、自然と笑みがこぼれる。
チャラン・・・。
バッグに付けているキーホルダーが揺れる。
桜の花びらを押し花にしたキーホルダー。
私はギュッとそれを握り締める。
忘れては行けない。記憶の結晶だ。
トボトボと歩いて、自宅付近に差し掛かった時、
すれ違う自転車から小さなクマのストラップが落ちたのに気がついた。
私はすかさず拾いあげ、自転車に向かって声をかける。
「あのっ!落し物!」
しかし、自転車は気づかずに角を曲がってしまった。
「今のって・・・」
恐らくこのストラップの落とし主は、
さっきまで見ていた青木琢斗に違いなかった。
「どうしよ・・・明日、渡そっかな。」
私はストラップを持って、そのまま家に入る。
「ただいま・・・」
返事はない。ある訳もない。
テーブルには、ラップに包まれたおかず。
いつも家は空っぽだ。
私はまっすぐ部屋に入る。
スクールバッグを机に起き、
「青木くんって家近かったんだ。
全然気づかなかった。
まぁ、私帰宅部だしね・・・。」
そんな事をボヤきながら
クマのストラップも隣にポンっと置いて、
一息着いたその時だった。
「寂しいね」
どこからともなく聞こえる声。
「え!?!?」
声は確かに机から聞こえてきた。
ゆっくりと机に目をやる。
「ひぃぃぃい!?」
ガタンっ!
私は思いっきり腰を抜かしていた。
そこにいたのは、
まるで生きてるかのように机に立っているクマのストラップ。
「寂しいんだよね?ひまりちゃん。」
「しゃ、喋ってる!?動いてる!?何なの!?」
気が動転して、今が現実なのかはたまた非現実なのか、
そんな区別もつけようがない。
「怖がらないで!大丈夫!僕は君を救うためにきたんだよ!」
「救う・・・?」
もっと訳が分からない。
なんだか私は、
とんでもない事にいきなり巻き込まれてしまったようです。
何がどうなってるのぉぉぉお!?
つづく・・・。