【十三】
「だから、石川五右衛門では無くただの盗掘屋として処刑を行うつもりだったのでしょう?」
その言葉を聞いて驚く三人の中で、要一人だけが、
「つまりどういう事?」
ゆっくりと光のそばまでやって来て、耳元で呟いた。光は表情を少々崩しながら、
「五右衛門さんは確かに盗みっていう悪い事をしてたんだけど、悪いお金持ちからしか盗まなくて、更にその盗んだものを貧しい人に配ってた訳だよ?」
要は黙ったまま首を縦に振る。
「そうなると、町の人にとっては罪人というよりはヒーローとか救世主に見えるでしょ?」
光は、そこで一度息継ぎを挟んで再び口を開く。
「そんなヒーローを捕まえて処刑したらどうなる?」
「町の人が怒るね?」
「そう、だから、石川五右衛門を処刑するんじゃなくて、ただの墓荒らし盗掘屋として処刑しようとしてたって事」
「おお、なるほど!」
要が理解出来るのを待っていた姫が、その言葉を聞いて再び話し始める。
「処罰は処罰だと私も分かっています。ですが、体裁を保つだけの為に偽りの処断を下すのならお止めなさい。一つの嘘が大きな嘘を作っていくのですよ?」
彼女は、
「現に」
そう呟き、光たち三人の方に視線を向けると、吐き出し掛けた言葉を飲み込んだ。
「この四人を牢から出し、私の部屋へ連れて来て貰えますか?」
「ですが、姫様!」
止めるように吐き出した男の言葉を拒否するように、彼女はもう一度、
「私の部屋へ連れて来て貰えますか?」
語気を強めて言った。
その後、彼女の指示通りにあっさりと牢獄から出された四人は、姫のいる部屋へと案内された。牢獄があったところから随分と高いところに上がったという感じはしたが、やはりそこから見える景色は、城下に広がる町並みを一望できる程の高さであった。そんな絶景を横目に、姫の前に座った四人は奥から五右衛門、要、光、葵と並び、彼女からの言葉を待った。
開口一番、
「すまなかったな」
と、謝罪の言葉が飛び出したのは意外で、全員が驚きリアクションが出来なかったが、
「謝らなければならないのは俺の方です。本当にすいませんでした。そして、有難うございました」
五右衛門は座ったままではあるが、深く頭を下げて土下座のような体勢になっている。彼はそのまま、
「俺は、牢屋に入れられても処刑されても文句の言えない事をやって来たんです。そこから救っていただいた姫様には感謝しかありません。謝られることなんて、何も」
口淀む五右衛門に、
「五右衛門、お前さんには謝っておらん」
まるで切れ味鋭い日本刀で一刀両断されたようにバッサリだった。こんな返事が来るとは予想にもしていなかった五右衛門は頭を下げたまま何のリアクションも出来ずに動きを見せないが、要と光から見る事の出来る顔の左側、特に耳辺りがゆっくりと淡く赤く色付いて行く。二人はゆっくりとそこから視線を外して正面に座る姫を見つめる。
「謝罪の理由は牢屋に入れられた事だと思うんですが、そもそもどうして私達はあそこに入れられたんですか?」
一番左側に座っていた葵は、五右衛門の変化に気付く事無く質問をする。隣でそれを聞いていた二人は、溜め息にも似た深い息を吐き出した。どうにも気まずい雰囲気を変えられた事に安堵したのだろう。わざと右側を見ないようにして、姫の言葉へと注目する。
「五右衛門を盗掘屋として処刑するには不都合があったんです。それは貴方達が本物の盗掘屋と遭遇してるという点です」
その言葉を聞いて、三人は関所で行われていた聞き込みのようなものを思い出した。
「あれはそういう意図で行われていたんですね」
光が自分に対して言い聞かせるような言葉で呟くと、姫は黙って頷いた。
「元々はこんなにも息苦しい家では無かったのですが」
とても、悲しい顔だった。
17.07.20 誤字修正




