【十一】
コントのような事をしていると二つ並んだ牢獄の前に先程光たち三人と話をしていた初老の男性がお付きのような若い侍を二人連れてやって来た。まるで牢獄で待つ四人の事を焦らす様にゆっくりと。
二つの牢獄それぞれから見やすい位置に立った彼は、話し出すまでの所作をまたしても焦らす様にゆっくりと行い、
「おーい、おっさん。理由も無く罪の無い人間を牢屋に閉じ込めるとはどういう了見ですかー?」
スポーツ観戦でヤジでも飛ばしているような口振りで要が茶々を入れるが、一瞥されただけでスッと視線を外されてしまう。明らかな無視に、
「ちゃんと理由を聞かせろ!」
木の組み枠で出来た格子を両手で力強く掴みながら続けて叫ぶが、
「それでは、只今から盗みの罪人、石川五右衛門の処刑を敢行する」
驚きの言葉で要の言葉を遮った。
「処刑?」
誰からともなくそんな言葉が零れたが、三人の視線は当然隣の牢獄で一人胡坐をかいている五右衛門へと向かう。全てを覚悟していたのか、その姿勢のまま全く動揺した様子を見せない彼は、真っ直ぐに正面を向いたまま微動だにしなかった。
ここに入れられた時から覚悟をしていたのか、それとも驚き過ぎて動けなくなっているのか、三人には全く違った印象を抱かせた。盗んだ物は貧しい人達の為に配っていたとはいえ、罪は罪。彼が盗みを働いていた事は曲げようのない事実なのである。
「ゲームの中で処刑ってどういうこと?」
光は、牢獄の中央で隣に立つ葵に小声で尋ねる。当然、そんな事の答えが彼女から返って来る訳が無いと分かっていても聞かずにはいられなかったのだろう。
「ゲームの中とはいえ、悪い事をしたらそれ相応の罰があります。っていう事なんじゃないですかね?」
そう言われ、
「あ、ゲームに数日入れないとかそういうのは聞いた事あるかも」
「あとは、名前の色が変わったり、悪い事をしましたよ。っていうのが分かるように表示がされたりですかね?」
「それくらいなら大事って言うほどでも無いね」
光が呟き、再び五右衛門へと視線を向けるが、彼は先程と同じように胡坐をかいたまま一切動いてはいなかった。その姿にもっと重いものが課せられるのでは無いかと光は内心思った。思ってしまった。こちらの言う事を一切聞かないNPCよりも少しの間であるが話をしたプレイヤーならば、どちらに肩入れするだろう?
光は何かを思ってと言うよりも身体が勝手に動いてしまっていた。彼、五右衛門を指差しながら、
「ああ、そうか。なるほどね」
格子状の組み木の向こうに立つ男性に向けてわざと思わせ振りな態度でそう声を上げた。
少しの時間稼ぎにもならないかもしれないとは思いつつも、五右衛門をこのまま見殺しには出来ないと思ってしまった為に口と身体が勝手に動いてしまったのだ。
「だから、俺達をこんな牢屋に入れたのか」
五右衛門が盗みで捕まった事と自分達が牢獄に入れられている事に関係があるとは思わない。それはそうだ。先程会ったばかりの赤の他人なのだから。しかし、何かを知っているように振る舞っていれば、相手も混乱、動揺くらいはするはずである。
光の読み通り、いや、それ以上のリアクションが返って来た。それは、
「どうして気付いた?」
という大きな声と、眉間へと皺を寄せ睨むようにした鋭い眼光であった。
光は内心。釣れた!と、ガッツポーズをしたがそれを表情や仕草に出す訳にはいかず、平静を装ったまま黙って睨み返した。
「まさか、お前たち守衛が話しているのを聞かれたのではあるまいな?」
光へと向けていた表情のまま後ろに立つ男二人にも物凄い剣幕でそう捲し立てるが、当然、男たちは自分達の罪を晴らそうと無言のまま首を大きく横に振る。
「ああ、やっぱりさっきのはそこの二人の声だったのか」
またもわざとらしく声を上げた光。
自分の敵であろう男が上げる声に面白い様に動かされ、味方であるはずの守衛二人が違うと首を振っているにも関わらず、それが信じられなくなっている。混乱というものは恐ろしいものだ。
17.07.16 誤字修正




