【八】
突然の出来事でパニックになり、三人がそれぞれ叫ぶような声を上げる中、いち早く冷静になったのは光であった。彼は暗闇で何も見えない中、自分達の身体が何かを滑り下りているという事に気が付き、いつか来るであろう着地の衝撃に備えて足に力を入れた。
しかし、そんな準備は活躍することが無かった。
ゆっくりと滑り行く先に薄ぼんやりとした光が見えた次の瞬間には、既に目の前に木で出来た床が広がっており、光の前を滑っていた葵は尻餅をついたまま滑り、それにぶつからない様に足に力を入れて止まろうとしていた光の後ろからはノンストップで要が突っ込んで来て二人が衝突するように床に吹き飛ばされた。
「大丈夫ですか?」
自分の腰辺りを軽く手で摩りながら尋ねる葵を見上げて、
「まあ、何とか」
と、声を上げる要の下には不機嫌そうな表情をしている光の姿があった。
「何とかじゃなくて、早いとこそこをどいてくれると助かるんだけど?」
そんなプレッシャーに負けた要が身体を起こして周りを見渡すと、壁とは別に格子状に組まれた太い木が並んでいた。それは正に、
「なんか、牢屋みたい」
要の言った通りそこは牢獄であった。四方の内、二方向を壁で遮られ、残りの二方向は木で組まれた格子状の柵の様になっている。廊下に面した所には扉らしきものが設置されているが、大きな錠でしっかりと鍵が閉められており、簡単には外せそうも無い。
要に続いて葵、そして光と順番に今、自分達が置かれている状況を必死に理解しようとしたが、
「これ、一体どういう事?」
簡単には理解出来る筈も無く、要が頭を抱えて声を上げる。光は、自分達が滑り下りて来た壁へと近付いて見るが、どういうカラクリになっているのか、そこにあったであろう穴はいつの間にか塞がれ、壁の一部となってしまっていた。
「たまたまこういう事になったって事は無いですよね?」
葵が誰にともなく尋ねるが、
「たまたま床が抜けて、その下が滑り台になってて、行き着いた先が牢屋になってるなんてたまたまは無いと思うな」
壁を見つめていたいた光は振り返って二人の方を向き、苦笑いで返した。
「ねえ、おじさんは何でこんな事になってるか知ってる?」
要が声を飛ばしていたのは隣にあるもう一つの牢獄であった。そこには床の上に敷かれた藁で出来た敷物に胡坐をかいた無精ヒゲの体格の良い男性が居た。
「そんな事、俺が知ってると思うか?」
こちらを一切見ずにそう零した彼は、ボサボサになった自分の頭を掻きながら、
「逆に俺が聞きたいくらいだよ」
口を尖らせて文句を吐き出した。
「おじさんも俺達みたいに滑り台で上から?」
格子状の組み木に張り付くようにして話を続ける要の姿に後ろから見つめる光と葵は感心するが、
「バカ野郎。そんなダサい方法で俺が捕まる訳無いだろ?」
意外にも会話は弾み、あっさりと話は進んで行く。
「じゃあ、おじさんはどうやって捕まったのさ?」
そこで初めてその男は、要の方を向いた。
「お前な、さっきから聞いてりゃおじさんおじさんって、俺はこれでも三十半ばだぞ?」
いや、それは十分におじさんなのでは?と、要を含む三人全員が思ったが、
「あ、ごめんなさい。で、お兄さんはどうやって?」
何事も無かったかのように要は彼の注意を流し、話を本筋へと戻した。
「パッと見て俺が誰だか分からないところを見るに、お前さんらは始めたばかりの初心者だな?」
笑顔を見せて言う。そして、手の平をこちらへと向け、
「まあまあ、皆まで言わなくても分かる。俺はサービス開始から遊んでる初期ユーザーだからな!」
少々絡みにくさがあるのか、光と葵はあまり近付かないが、興味津々な要がしっかりとコミュニケーションを取ってくれているので、離れた場所からしばし傍観をしていた。
17.08.18 大幅修正&加筆




