【六】
山の中腹に建つその城は天守閣を備えてはいるが、周りを森林に覆われている為、あまり綺麗なお城とは言えない風貌であった。それに納得出来ないのか要は少々不満そうな顔をしているので、
「敵に攻めにくいように作るのが城だからね?後ろが山になっていれば守らなきゃいけないのは正面と左右からの攻撃になる訳、四方が三方になれば、その分人員も減らせるでしょ?」
理屈を考えて光が説明したものの、どうやら納得出来ないらしく、要は静かに首を横に振った。
この恐ろしいまでのお城への執着は何なんだろう?と、話をしていた光も彼と同じように首を振って苦笑いを浮かべた。
城内は外観とはまた雰囲気が違い、とても綺麗に作られていた。
大きな廊下の床は丁寧に磨いてあるのか鈍く光っており、つるつるとした心地の良い感触は滑って転んでしまいそうなほどである。部屋を区切る障子や襖も綺麗に手入れされており、三人が今まで見て来た町の中に建っている商店などとはやはり格というものが違っていた。
「この中で少々お待ちいただけますか?」
先導をしていた男性が、そう言って襖を開いて中を差すと十六畳程の何も無い部屋が広がっていた。
三人は、頭を下げる男性に対して軽く会釈をしながら中へと足を踏み入れると、静かに襖が閉められ、三人だけの空間になった。
「窓も何にも無いね」
そう呟く要の言葉通り、入って来た方向に襖があるだけで残りの三方は全て壁。そこには窓も無く、代わりに光源が掛かっているだけであった。
城の中という慣れない場所に三人は、特にする事も無いのだが、部屋の中をうろうろと歩きまわり、誰一人として落ち着いて腰を下ろそうとしない。そんな中、襖の外から声が聞こえ、
「失礼する」
先程案内をしてきた男性とはまた違う少々年齢を重ねた男性の声。その声の主は中からの言葉を待つ前に襖をゆっくりと開き部屋の中へと入って来る。その姿をボーっと眺めていた光の目には部屋の中には決して入って来ない若い男性が廊下で立っているのが見えた。しかし、それに対して特別な感情を抱く事も無く、視線は徐々に部屋に入って来た初老の男性へと向かう。
彼は、ゆっくりと部屋の前方までやって来ると、
「座布団など無いが、腰を下ろして下さい」
そう言った。それに促され彼に対面するようにして三人が横並びで座る。
「この男に見覚えがあるそうだね?」
男性が取り出したのは先程、関所で見せられた時と同じようなあの盗掘屋の似顔絵が描かれた紙であった。三人それぞれが黙ったまま首を縦に振るが、真ん中に位置している光は、
「はい」
しっかりと声に出して返答した。
「我々の領地内で悪さをする盗掘屋でな?代々の領主様の墓や閉鎖された鉱山などを荒らし回っている面倒な奴なんだが」
話は続いているが、今の言葉を聞いた光は少し焦った。迷宮になっているとは言っても自分達が探索したあの金山もこの世界の人間にとっては入ってはいけない場所だったのでは無いか?と。別に荒らす目的で無いにしても盗掘屋と鉢合わせをした事を考えれば自分達も同罪なんでは無いか?と。
「これ以上、被害が出る前に捕まえてしまいたいんだが、お主らはどこでこの男を?」
それに答えたのは要であった。
「えっと、何だっけ?何とか金山?」
そう言って左隣に座る光とその奥にいる葵に尋ねるように聞く。声を張り上げた割には肝心な名前を忘れている辺り、流石は要であるが、光にとってはそれどころではない。
「黒川金山ですね」
間髪入れずに葵がフォローに入ってしまう。だから、二人の間を割るようにして、
「えっと、新町という町はご存じですか?」
光が正面に座る男性へと尋ねた。




