【一】
再び新町へと戻り葵と合流した光であったが、どこからどう話して良いのか分からずに中々最初の一言が出て来なかった。それを見越してという訳では無いのだろうが、先に葵から言葉がやって来て、
「要さんがまだ来てないのを見ると、昨日はやっぱり遅くまでプレイしてたんですかね?」
「釘は刺したけど、あんまり効果は無かったかな?」
苦笑いでそう返すと、
「要さんが居ないと出来る事限られちゃいますね」
先にクエストを進める訳にはいかないと彼女は思っての発言だろうが、光はまた別の考えだったようで、
「いや、俺らの忠告を聞かないで夜更かしをしてる訳だから、あんまり気にしなくて良いんじゃない?」
そう言って光は更に続けると、
「もしあれなら電話で叩き起こしても良いけど」
笑いながら言った。葵は身体の前で両手を振って遠慮する。
二人が会社の同僚である事は知っている為、その発言が本気なのか冗談なのか非常に分かりにくかった為、
「何か二人で出来そうな事探しましょうか?」
そう提案された光は、
「昨日クリアした迷宮を二人で回っても良いし、後は手を出さなかった製作系とか?」
先程の出来事を頭の中で思い出しながらそんな事を呟いた。葵も、
「製作ですか」
同じように呟いた彼女であったが、口振りは興味ありますという感じが込められていた。これは丁度良いと考えた光は、今日ゲームにインしてから起こった出来事を最初から全て葵に話し始めた。
不思議な縁ではあるが、色々あって巻き込まれてしまったというのが正しいのかもしれないが、彼女、葵にはとても興味深い話に映ってしまったようで、
「友達登録したなら、今度紹介してくださいよ!」
少しテンションが上がったのか先程よりも大きめの声でそう言われた。
「その武器を作って欲しいって言って来たお客さんが、酒井忠次だったんですよね?」
「うん、そう表示が出てたね」
「って事は、光さんが知り合った香香香さんっていうプレイヤー繋がりで村正。そして酒井忠次から徳川家康まで一気に知り合いになれるチャンスじゃないですか!徳川の家臣には有名な人が多いですし、豊臣とは関ケ原の因縁などもあるでしょうけど、元々秀吉が生きている間は彼の家臣だった訳です。それに、あの織田とは同盟関係にあったんですから、これは夢が広がりますね?」
頭の中でどういう妄想を繰り広げているのかは分からないが、歴史好きの本性が頭の中からだだ漏れになっている事だけは明白であった。しかし、
「昨日の長政さん達に続いて不思議な縁があったのは事実だけど、流石にそこまで一気に知り合いになるのは難しいんじゃないかな?」
冷静に彼女の妄想を否定するように言う。
プレイヤー同士が繋がっているというのは、葵の想像通りかもしれないが、香香香や村正が作った武器を家康に送るという事に関しては光にとって何も関係が無い事なのだから。
「そうですかね?私、本田忠勝が好きなんで、是非徳川家とは仲良くしたいんですが」
「今日の話の中には出て来なかったけど」
葵の話の圧力に押されてしまい、そんな事しか言えなかったのだが、
「忠勝さんは蜻蛉切っていう槍を使ってたんですよ。この槍の刃に止まったトンボが真っ二つになったっていう伝説からそういう名前が付いたんですけどね?」
「へえ」
「この蜻蛉切は、刃の長さが四十センチ、柄の長さが六メートルもあったらしいんですよ!それを戦場で振り回してたって凄くないですか?しかも、そんな槍を振り回しておいて生涯で一度も戦場で傷を負ったことが無いんです」
目を輝かせて喋る葵にただただ頷くしかない光だったが、
「蜻蛉切は分からないけど、村正さんと忠次さんの会話の中に猪切ってのは出て来たな」
「酒井忠次の愛刀じゃないですか」
光はそれに驚くが、これだけ歴史に詳しい彼女なら知ってても不思議じゃないかと納得し、
「そうそう。村正さんが言ってた」
「良いですね!徳川家と仲良くは無理かもしれないですけど、村正が刀を作ってるとこは私も見てみたいです。次に連絡があったら、私もお邪魔しても良いか一度聞いてみて下さい。お願いします」
テンションが上がった状態で喋っているので、途中で軽く飛び上がったりしていたのだが、最後にはしっかりと頭を下げてお願いする彼女を見ると、その気持ちを簡単には無下に出来ないなと思う光であった。
しかし、これから何をするかは一切決まっていない。




