【十二】
町へと戻った三人はすぐにあの寂れた宿屋へと向かった。
そこで仲居をしているお千代さんを呼び出してもらい、クエストの詳細である赤い着物を着た彼女の正体について要が身振り手振りを交えて話し始める。話を簡潔に済ませようと思えば、あの着物の女性の正体は殺された遊女の幽霊だったんですよ。で、終わりになるのだが、どうやら要に掛かると壮大な悲劇の物語になってしまうようで、
「そこで恋に落ちた門番と見習いの遊女は、結ばれること無く口封じに殺されてしまったんです」
感情を込めてそう話す要の後ろでは、
「光さん、今のって私が言ってた妄想なんですけど」
真剣な眼差しで話を聞くお千代さんに聞こえないように葵が光の耳元で呟く。
「まあ、悲しい出来事だったってのが伝われば話の大小は割と問題無いんじゃないかな?」
「なんか、ちょっと心配なんですけど」
「実際、葵の妄想通りの事もあった可能性もある訳だし」
光が歯を見せながら笑うと、葵もつられて苦笑いをする。
「そんな悲しい出来事があったんですね。私、こんなにも近くに住んでいたのに全然知りませんでした」
要の話が終わると、涙を流して聞いていたお千代さんは着物の袖で涙を拭い、
「この話は町の皆さんに聞いて貰って、しっかりと供養をしてあげたいと思います」
「え?供養?」
焦った要が尋ねると、
「そうです。そんなに悲しい思い、辛い思いをして亡くなったのならしっかりと供養してあげないといけません。慰霊碑を建てたり、お坊さんにお経を唱えて貰うのも良いかもしれません。遊女さん達の為に歌や舞で供養するという方法もありますね?」
次から次へと案が上がり、その度に規模が大きくなっていく事に要は更に焦りを見せるが、
「まあ、あの遊女さんも五十五人の仲間全員が安らかに逝けるようにって言ってたから良いんじゃないの?人によって好みが違うだろうから色々とやって貰おうよ」
後ろから光が話に入って、まとめ始める。
「この供養はお千代さんにお任せしても大丈夫ですか?」
「はい。旅の方たちには正体を突き止めて貰えただけで十分です。ここから先は私達町の人間の仕事だと思うんで、本当にありがとうございました」
そう言って深々と頭を下げるお千代さんを見つめていると、クエストが完了した。報酬は、経験値とお金、そして、技能ポイントを増やす事の出来る技能玉であった。
「俺、突一閃覚えるのに結構ポイント使っちゃったからコレは有難い!」
宿屋から外に出て、報酬を確認した要は嬉しそうに言った。
ボス戦での彼の活躍は言わずもがなではあるが、自分の技能は一体どれくらい力になったのだろうかと光は技能玉を手にしたまま考える。ボスにはデバフが一切入る事は無く、出来た事と言えば自分を含めた味方三人にバフをばら撒くだけ。葵には攻撃の二番手としてのポジションと回復、要にはメインのアタッカーとしての役割がしっかり出来ているだけに自分の技能の頼りなさについつい溜め息が零れてしまう。
「どうしたんですか?」
隣を歩く葵が不思議そうな顔をして尋ねて来るので、
「支援ばかりじゃなくて、そろそろ攻撃系の技能にもポイント振った方が良いのかな?ってさ」
「支援に特化してるのも強いとは思いますけど、ある程度攻撃系の技能もあった方が一人で冒険行ったりする時に便利ですよね?今日みたいに三人の時間が合うって事ばかりじゃないと思いますし」
「確かにね。それは考えてなかった」
欲しい素材を探しに行ったり、クエストを消化したり、迷宮に潜ったり、それらを行う時に常に味方がいるとは限らない。それぞれリアルの都合でゲームにログイン出来ない時もあるだろうし、体調も常に良いとは言えない。
要は誘えばすぐに来てくれるだろうけど。と頭に浮かんだ光だったが、それを口に出すのは止めておいた。
次に目指すのは再び倉賀野。職人の町であるが、とりあえず職人を後回しにしてしまった三人にとっては、普通の町倉賀野になってしまった。だから、
「倉賀野で何する?やっぱりクエスト攻略かな?」
先頭を行く要は、まだまだ元気な様子だが、
「いや、そろそろ良い時間だし。今日のところは解散にしないか?」
「そうですね。初日だからって気合い入れ過ぎちゃいましたね?」
光と葵の話の流れは、ゲームを終了する方へと流れているので、
「今日は終わり?」
要は寂しそうに言う。
「夜遅くまでプレイして身体壊したら元も子も無いでしょ?」
そう光に諭されて要は仕方なく応じた。
気が付けば、時刻は午前零時を回っていた。




