【三】
「これは火打石と打ち金ですかね?」
葵が言うと、箱を持っていた要は中身を取り出し両手に持つ。
「時代劇で見たことあるね。玄関で火花飛ばすやつ」
そう言いながら見よう見真似で手を動かし、火打石に打ち金をぶつけて火花を飛ばした。調子に乗って何度も何度も繰り返し火打石を打ち続ける要をボーっと見つめていた光に、
「製作の素材として使うのか、そのまま火打石として使うのか、どっちなんでしょう?」
葵が尋ねた。
「あんまり素材では使わないとは思うけど、ちょっと詳細で見てみ」
光に言われて火打石を持っていた要が詳細で説明文を読み出した。
「所持しているだけで可燃物に火を点ける事が出来る。だって」
「まあ、用途としては間違って無いけど、ちょっと魔法っぽいな」
苦笑いで光が返すと、辺りを見回していた要は火打石を手にしたまま、転がっていた枯れ枝を拾い、おもむろに火を点けた。枯れ枝が松明にジョブチェンジしたのを見て、
「すげえ、これ超便利じゃない?」
と、楽しそうに要が言うので、
「うん、確認ありがとう」
そう冷静に返事をした光は、ゆっくりと彼へと近付いて手を出した。
「要が持ってると色々不安だから貸して」
「えええええ!子どもじゃないんだから、火の扱いくらい大丈夫だって」
不満そうに零すが、光と葵には受け入れて貰えず、火打石と打ち金は光の道具へと収納された。
しばらくの間、火打石を持たせて貰えなかった事に対する不満を呟いていた要だったが、目の前に続いている道が二つに分かれると、すぐにそちらに興味を移し、
「迷宮で分かれ道って初めてだね?」
何故か嬉しそうに言った。興味津々なのか、極度のマゾ体質なのかは分からないが、後ろの二人へと振り返って満面の笑みを見せる要に釣られて光も笑ってしまった。そのついでとは言わないが、
「せっかくだし、要がどっちに進むか選んで良いよ。近接戦闘やらせてるって申し訳無さもあるしね?」
隣に立つ葵に同意を求める。
「そうですね。これからこういう迷宮も増えると思いますし、毎回話し合って進む道を決めるより効率的ですからね?」
二人の言葉を受けた要はゆっくりと首を縦に振ると、
「こういう分かれ道だと人間は無意識に左に行くって話を聞いた事がある!だから、右に行こう!」
未だに燃え続ける枯れ枝を振り上げて力強く言った要だったが、
「無意識に左に行くって事は、作ってる人間も無意識に左側を正解にしてるんじゃない?」
光に口を挟まれ、怪訝そうな表情で首を傾げた。真面目なアドバイスというよりは要をからかう為に言った一言に見事なリアクションが返って来た為に光は声を上げて笑ってしまった。
「光さん、せっかく要さんが選んでくれたのに意地悪したら可哀想ですよ?」
「いや、ごめんごめん。冗談だから、右に進もう」
「なんだよー、もう!ああいう事言われると、本気で迷って選べなくなるからね?俺」
自信満々で言う事では無いが、笑ってスルーをした二人は要の後に続いて右側の道を進んで行く。
洞窟の中という事もあり、頭の上を蝙蝠が飛んでいく。それを日本刀で叩いては小銭と経験値を稼ぐ。相手が相手だけにそんなにたくさん貰える訳では無いのだが、
「こういう動物とかからも経験値とお金が貰えるんだね」
「まあ、ゲームらしくて良いじゃない?」
要の背中に向けて光が返事をした。
道中、蝙蝠しか出現せずに道は行き止まりになってしまったが、突き当たりであるそこには宝箱が一つ置いてあり、
「行き止まりだけど、宝箱だー!」
テンションの上がった要が食い付くように近付いて行く。そんな姿を後方で眺めていた光に、
「光さん、さっきの戦闘でレベルが上がって技能ポイントがあるんですけど、私も何か近距離の技能覚えた方が良いですかね?」
葵が尋ねた。洞窟という狭いフィールドでの戦闘が続いている為、弓という武器の良さが中々発揮出来ていない状況に不満があったのか、それとも仲間に迷惑を掛ける事が申し訳無いのか、彼女はとても真剣な表情だった。
「うーん、確かにこういう狭いとこだと戦闘がし辛いかもしれないけど、わざわざ近接戦闘の技能を覚えることは無いんじゃない?まあ、あった方が便利な状況もあるかもしれないけど、それでも技能の数が限られる訳だから、弓の技能を重点的に覚えた方が強くなるような気はするかな?」
聞いて葵はしっかりと頷く。
「近接戦闘はさ、要に任せておけば良いよ」
光はそう言って視線を葵から前方にいる要へと戻す。が、彼の姿はどこにも無く、そこには元々あった宝箱が一つ置かれているだけだった。
「あれ?要のやつ、一人でどこ行った?」
17.06.03 誤字修正




