【一】
山道の終点には断崖に掘られた大きな洞窟があった。おそらくここが金山の入り口なのだろうが、大きな穴をしっかりと塞ぐように木の柵が張り巡らされており、中に入れない様になっている。それを見た葵が、
「あの、幽霊さんが言ってた事は本当だったみたいですね」
彼女はきっと金山が閉鎖された事を言っているのだろう。それを聞きながら光は、すぐ横に立てられた看板に目をやり、そこに書かれている文字をそのまま口にする。
「『迷宮:黒川金山入り口』だとさ」
「クエスト受けてないんですけど、入れるんですかね?」
心配そうに尋ねた葵。彼女がそう言うのには理由があった。初めて挑戦した迷宮であるトバノ森では、盗賊に盗られた神輿を取り返す為に迷宮に入ったのだが、今回は特に何のクエストも受けていない。
新町で受けたクエストは幽霊の正体を探るというものとキノコ集めに山賊討伐、そして荷物を届けるというものだけだった。
「調べてみても良い?」
後ろを振り返り確認した光が看板に触れると、三人の視界は暗転し、次に視界に光が差すと柵で封鎖された金山である洞窟の中に立っていた。
「行けるっぽいね?」
光が言うと、
「封鎖された金山の中にいる敵って何?」
先程の幽霊が頭にチラついているのか、要が不安そうな声を上げる。そんな言葉が敵を呼び寄せたのか、三人の目の前に血を流した侍が姿を現した。それは何を言う訳でも無く黙って刀を鞘から抜くと、両手でしっかりと握り三人を睨み付けて来る。
「口封じに殺された関係者の一人って事か?」
光は言いながらバフを要へと掛ける。
「え、やっぱりこれもお化けって事?」
身体に一瞬エフェクトを纏った要が先程と同じく不安そうな表情で言うが、後ろで敵をけん制して弓を構えた葵が、
「お化けって言うより、ゾンビの方が近いかもしれませんね?」
言うと、要の表情は見る見るうちに明るくなり、
「え、それなら得意なんだけど!」
言って、刀を抜いて走り出し、縮地を使って敵の背後を取ると隙だらけの背中を斬り付けた。そして、その斬り上げた刃を戻しながらもう一度斬り付け、更に胸の中央部へと深く差し込んだ。が、それでも侍は倒れること無く前方に居る光と葵を睨み付けている。その体勢のまま持っていた刀を後方へと振り払い要へと反撃をする。
「のわっ!!」
と、だらしのない声を上げた要は後ろに飛び退くようにしてその攻撃を回避するが、咄嗟のことに、相手の胸に突き刺した武器を手放してしまっていた。そんな手ぶらの状態になった要に、日本刀が突き刺さったままの侍は連続で攻撃を仕掛けて来る。彼の後方からは葵の放つ矢が連続で突き刺さっているが、ダメージが入っている様子は無い。
じりじりと距離を縮められ、追い詰められる要に一本の日本刀が地面を滑るように転がって来た。光が自分の持っていた日本刀を彼に向かって投げたのである。要は急いでその日本刀を掴むと、振り下ろしてくる相手の攻撃を受ける。両手でしっかりと握られた日本刀は侍の刀を止め、そして侍自身の動きも止めた。
そこに攻撃力の上がった光の一太刀が頭へと入る。刀を受けていた要へと伝わってくる力が徐々に弱くなり、侍はその場に膝を突くようにして身体を崩す。そして、動きを止めると黒く細かい砂の粒へと変わっていった。
腰を軽く払いながら立ち上がった要は、砂の塊と一緒になった日本刀を掴むと、
「それ、どうしたの?」
と、光が持っていた日本刀を顎で指しながら尋ねた。
「闇市場で買い物した時、一応二本買っておいたんだよ。まさかこんな使い方するとは思わなかったけど」
要から手渡された日本刀を受け取ると、光は追加で装備した日本刀を道具一覧へと戻す。馬を戻す時と同じように日本刀は光の粒となって消え、手元から無くなる。そして、
「要、相手はゾンビなんだから頭狙わないと」
自分のこめかみを指差しながら笑顔を向けて言った。




