【十】
光は隣にやって来た葵に対して小声で、
「喋り方が『ありんす』じゃないのは分かりにくくなるからかな?」
聞くと、
「ありんす言葉が使われ出したのは江戸時代に入ってかららしいですから、一応そういうのを考えてるんじゃないですかね?他の事に対しては時代背景無茶苦茶でしたけど。でも、何故かここだけ時代設定をしっかりしてるってのは少し変ですから、ありんす言葉使うのがただ単に面倒だった可能性も否めませんけどね」
予想よりもしっかりとした回答と考察が返って来た。詳しいなと改めて驚くと共に、
「なるほど」
と、頷く光。そんな二人を無視して目の前に佇む幽霊は話を始めた。
「戦をする為には武器や馬を用意する資金が必要になるのは分かるね?」
身体を浮かせたままの彼女は自分の爪先を見つめながら、やる気無さそうに言う。
「その資金を賄おうと金山や銀山を探したっていうのは知ってます」
三人を代表して葵が相槌を入れた。
「なら話が早いね?」
彼女はそう呟くと、視線を葵へと移しながら、
「こんな山奥にある金山に働きに来る物好きなんてのはそうそう居ないよ。周りに何も無いし、キツイ仕事だ。そんな男達の相手をする為に金山の近くに遊郭が作られたんだけどね?私はそこで働いていたのさ、五十五人の内の一人としてね?」
「そんなに沢山の人が働いていたんですね」
幽霊は静かに頷くと、
「似たような身の上の子が多かったから、自然と仲良くなって、それなりに楽しく生活してたんだけどね」
「何かあったんですか?」
葵が尋ねると、俯き加減だった彼女は更に落ち込んだように首を垂らし、
「殺されたんだよ。五十五人全員が口封じの為にね」
「口封じですか?」
「ここの金山を治めていた大名が戦で死んだのをきっかけに敵の勢力による征伐が始まったんだ。その時にこの金山を閉鎖したんだけどね?」
「敵方にこの金山の情報が漏れないように存在を知っている人達全員が殺されたって事ですか?」
彼女は黙って頷いた。あまりの事実に言葉を失ってしまう葵だったが、隣にいる光に、
「ゲームの中の話だからね?」
そう言われ、我に返った。
「あ、あの、貴方達は耳元で助けてって言ってましたけど、具体的に私達はどういう事をしてあげれば良いんですか?」
言葉を受けた彼女は下げていた首をゆっくりと上げると、
「もう死んでるのは分かっているんだけど、五十五人全員が悔しくて成仏出来ていないんだ。だから、どうか私達が安らかに逝ける様に……」
そこまで言った彼女の身体は更に薄くなり、景色に溶け込むように消えて行ってしまった。それと同時に三人の前にはクエストが一つ進んだというアナウンスが表示された。
「今の事をお千代さんに報告すれば話が進むのかな?」
光が言うと、
「何だか、切ないお話でしたね?」
「そうだね」
言いながら光が振り返って要の方に目をやると、彼は両耳に手を当てたまま動かなくなっていた。
「要の奴、せっかくの話も全く聞いてないんじゃ?」
「まあ、ゲームとは言ってもこれだけリアルですからね?お化けや幽霊が苦手な人にとってはちょっと辛かったかもしれませんね?」
呆れながら言う光と、それでもフォローしてくれる葵が肩や頭を触ると、
「あ、終わった?」
と、間の抜けた声が返って来た。
「ちょっと、あまりに幽霊がリアル過ぎてヘッドギアを途中から外してた」
笑いながら続けた要に、
「まあ、後で詳しい話は教えるわ。で、これからの事なんだけど、とりあえず上の山道に戻らなきゃいけないって事とイベント用に金山を様子見したいって思ってるんだけど、どう?」
という光の提案に葵はすぐに乗っかり、要は崖を登るという点について少々難色を示していたが、
「崖を登ってしまえば幽霊も出て来ないと思いますよ?」
そんな葵の言葉に納得し、馬で断崖を掛け上がる事になった。
山道へと戻った光は馬から降りながら、川の方を覗き込み、
「この世界は一体どこまで行けるようになってるのかな?」
クエストの目的地だった為に川まで下りる事が出来たのだろうが、ここから見える周りを囲んでいる全ての山にも行く事が出来るのだろうか?
視線を上げて空と共に見渡す山々を見て光はそんな事を思う。
「よし、とりあえず金山に行ってお金を稼ぐぞー!」
先程までとは打って変わった要が元気な掛け声で先頭を歩きだす。そんな調子の良い彼に、
「あ、そうだ。さっきの幽霊はどうやら金山の口封じで殺されたみたいよ?」
光が言う。
「五十五人の女の人がそんな理由で殺されるなんてヒドイですよね?」
葵も乗っかるように言うと、
「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ、金山にも出るかもしれないって事?」
後ろを振り返った要は不安そうな顔で呟いた。




