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群雄割拠のアレとコレ  作者: 坂本杏也
向き不向きと職人の道
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【九】

 坂道と呼ぶには急すぎる斜面を駆け下りて行く馬達は、足というかひづめを滑らせる事無く川岸へと降り立った。一番後方、最後にやって来た要は、大声を上げながら下りて来たが、

「ああ、まあ、意外とそうでも無かったね?」

 荒くなった息を整えながら前で待つ二人へと視線を向けて言った。

 かなりの距離山を登って来た事もあり、ここを流れている川も幅が狭く流れが激しくなっている。当然、水の流れも速い為に要のその言葉が二人にはしっかりと届かなかった。

 辺りを一通り見まわしていた光が、要の方へと馬を進めながら、

「今、なんか言った?」

 聞いて来るので、改めて息を整えながら、

「ジェットコースターに比べれば余裕のよっちゃんだった!」

 馬に跨ったまま胸を張って言う。

「なら、良かったわ」

 要の余裕たっぷりな言動を見て安心した光は、自分の胸に手を当て小さく息を吐きながら安堵といった表情を作って言い、更に言葉を続けながら、

「帰りは、もしかするとこれを上って行かなきゃなんないかもしれないから」

 そう言って指差すのは、今まさに下りて来たばかりの断崖絶壁だった。要はそれを見つめながら、

「マジかよ」

 と、小さく呟いた。


 そこを流れる川は上流という事もあり、大きな石がゴロゴロと転がっている為、馬で移動するのは諦めて徒歩になった。どこから流れて来たんだと思うような大きな岩を避け、更に上流方面へと足を進める。だんだんと川に足を入れないと上流へは向かえない程、川岸が狭くなると、

「助けてぇ……助けてぇ……」

 という消え入りそうな女性の声が三人の耳に聞こえて来た。消え入りそうな声の筈なのに、しっかりと三人の耳に聞こえている時点でおかしな話ではあるのだが、聞こえて来る女性の声は二人、三人と徐々に数を増やしていく。

「あの、これ聞こえてますよね?」

 三人が一列となり並ぶ中央で葵が言うと、前の光と後ろの要はほぼ同時に頷いて返す。

「助けてって聞こえるんですけど、何をどう助けてあげれば良いんですかね?」

 光は足を止めゆっくりと振り返ると、

「その発想は無かった」

 と、葵に返した。彼は、耳に響いて来る寂し気な女性の声を振り払うように頭を振って、

「クエスト受けた時から絶対に戦闘になるもんだと思ってたから」

「私もそう考えてたんですけど、改めて考えると私たちに幽霊退治なんて無理じゃないですか?幽霊には物理攻撃が効かないってのがゲームの常ですし」

 大真面目に返す葵を見て光は小さく笑うと、

「じゃあ、どうする?話でも聞いてみる?」

 そう提案した。その最中も耳には先程の寂し気な女性の、

「助けてぇ……助けてぇ……」

 という声が聞こえている。

 一番最後尾にいる要は、両手の平で両耳を押さえては離しというのを繰り返して、出来るだけ声を聞かないようにしている為に会話に参加していないが、今、彼に何か意見を聞こうものなら声を上げて泣き叫んで収集が付かなくなる可能性もあるので、もう少しだけ放って置く。

「この声が幽霊の正体だとしたら話は出来そうですよね?」

「まあ、助けてって言葉は普通に喋れてる訳だしね?」

「じゃあ、ちょっと」

 そこまで言い掛けた葵は口と動きを止めると辺りに目をやり、

「ちょっと、うるさいっ!話聞いてあげるから、静かにしてっ!」

 突然、叫び声を上げた。すると、今まで永遠と聞こえていた幽霊の声らしきものはスッと消え失せ、耳には川の流れる音だけが聞こえていた。

「じゃあ、ちょっとどれくらいコンタクト取れるのか話し掛けてみても良いですか?」

 何事も無かったように光に言う葵の表情は何も無かったように普通の表情で、

「えっと、うん。よろしくお願いします」

 驚いた光の返事はついつい敬語混じりになってしまっていた。


「助けて助けて言っている貴女達。私達は貴女達がどうして助けて欲しいのか、どうして今、そんな状態になっているのかも分かりません。だから、少しでも良いので話をしてくれませんか?」

 川の流れる音を裂くように葵のハキハキとした言葉が辺りに反響する。特に何かが起こる事も無く数秒が過ぎると、彼らの目の前に派手な赤い着物を着た女性が姿を現した。彼女は三人よりも少しだけ高い所に浮いており、向こう側の景色が透けて見えている。

 光と葵は静かに彼女を見つめる。そして、要も二人と同じように静かにはしているのだが、耳に手を当てたまま固まってしまい動かない。

「こんな山奥に遊女?」

 女性の格好見て不思議に思った光がそう零した。三人の目の前に姿を現した幽霊は赤い派手な着物を着ているが、それはどこからどう見ても遊女の姿であった。

「あんた等、この先に金山て言うものがあるのは知ってるかい?」

 何の挨拶も無しにそう声を掛けて来た遊女は、先程まで三人が歩いていた道の更に先の方を指差して尋ねて来る。

「知ってます。その金山と貴女はどういう関係があるんですか?」

 葵が一歩前へと足を進め、光に並ぶようにして答えた。

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