【七】
こちらに向かって来る山賊相手に無心で矢を射っていた葵は、
「光さんは、技能どんなものを取ったんですか?」
手の動きを止めずに尋ねる彼女を器用だなと感心しながら、
「とりあえず、要とはタイプが被らないように支援系の技能を取ってみたんだけど」
そう呟き、技能一覧を開くと、
「これって自分以外に掛ける場合ってどうしたら良いんだ?」
その声に葵の腕が止まり、
「要さんも私も攻撃系の技能ばかりだったので気にしてませんでしたけど」
そこまで言うと何かを思い出したように、
「あ、そういえば治癒矢って言う回復の技能を要さんに使った時は、『技能:治癒矢』って言ってから要さんを狙って弓を放ったんですけど、何か参考になりますかね?」
「その人に掛けるっていう意思があれば良いのかな?」
不安そうに呟く光に、
「今、ちょうど要さんが敵と戦闘始めたみたいですから試してみて下さい」
葵にそう言われるがまま、細く続く道の先で敵と戦闘をしている要を見つめ、
「技能:攻撃力上昇」
更に、
「技能:防御力上昇」
と、技能を使ってみるが遠くにいる要にそれが付与されているのかが全く分からない。だから、光は視線を戻して振り返り、今度は開かれた技能一覧から自分の取得した物のみを限定して表示させ『命中率上昇』と『攻撃力上昇」に続けて触れる。その瞬間、再び弦を引いていた葵の身体の周り陽炎のようなエフェクトが現れて即座に消えていく。
「今のが効果が掛かったって事なんですかね?」
そう言い終えてから矢を放つが、山賊には当たる事無く向こう側の壁へと突き刺さる。
「えっと、ちょっと体感しにくい感じがしますかね?」
申し訳無さそうに言葉を選んで呟いた彼女のリアクションにショックを隠しきれない光は、
「まあ、こういうのは少しくらい命中率が上がったからって、すぐに変わるものでも無いし」
自分自身を落ち着かせるように呟く。そして、更に言葉を続け、
「ちょっと自分でも試してくる」
そう言って走り出すと、目の前に表示されていたウインドウにある『攻撃力上昇』『防御力上昇』を触りながら要の元へと近付いて行った。
比較的元気な山賊二人を相手にしていた要は、一方の刀を刀で止めながらもう一人の腹に蹴りを入れ、
「俺、強くなってる気がする!」
そこにやって来た光に力強く言う。その言葉に嬉しくなった光は、要に蹴り飛ばした山賊の前へと一気に駆け出すとそのまま刀を突いて止めを刺した。しかし、
「やっぱり武器と防具だけでここまで違うんだね!」
相手の刀を弾き、隙の出来た身体へと刀を斬り付けた要の言葉に光は小さく肩を落とした。そこへ先制攻撃を受け、肩を負傷していた手負いの山賊が遅れて到着し、痛めていない左手で器用に刀を握るが、
「技能:移動速度上昇」
と、呟いて駆けた光の迫力に押され何も出来ないまま斬られてしまった。
目の前で文字による山賊のカウントが残り四に減るのを見ながら、
「光はバフ系の技能覚えたんだ?」
楽しそうに話し掛けて来た要とは対照的に、まるでこの世の終わりのような表情のまま頷く光。彼を心配して、
「ああいう支援系の技能の事をバフって言うんですね?」
と、話題を変える為か少しでも場を盛り上げようと葵が尋ねる。
「ゲーム用語になるのかな?味方の攻撃力上げたりする技の事をバフって言うね?逆に敵の攻撃力を下げたり防御力を下げたりする技をデバフって言ったりするよ」
「へえ、勉強になります!」
要の解説に、胸の前辺りで両手を合わせる大袈裟なリアクションと言葉で返した葵。きっと無理して明るく振る舞っているのだろうが、そんな彼女の優しさが光には強く突き刺さり、痛い。しばらく黙って二人の会話を聞きながら痛くなった心の傷を必死に修復していた光は、
「デバフかぁ……」
そう小さく呟くと、
「デバフも覚えれば良いんじゃない?敵の防御力下げてこっちの攻撃力が上がれば、今よりもっと実感しやすくなるんじゃない?」
死んだ魚のような目をしていた先程までの光はどこかへ行ってしまったようで、今は玩具を与えられた子どもの様にキラキラとした瞳で二人に語りかけていた。
「でも、技能ポイント足りないんじゃない?」
要の冷静な指摘にも負けず、
「今日は、この辺の山賊狩りまくってレベリングだ!レベリング!!」
山の中腹にある谷のそばでそんな光の叫び声が大きく反響していた。
17.05.27 誤字修正




