【七】
「ガチ?ですか?」
その言葉の意味が分からないのか首を傾げながら尋ねるお千代さん。
「ああ、こいつ幽霊とかお化けとかそういうのが苦手で、あまりの恐怖でちょっと混乱してるんでしょう?」
光が言って誤魔化すと、彼女は要の方を見ながらすぐに口を開き、
「きっと得意な人の方が珍しいでしょうね」
怪談話を語っていた時とは随分雰囲気が変わり、笑いながらそんな事を言う。ゲームの設定をした人がせっかく怖い話をするなら本格的にした方が良いと考えたのか、彼女が自分でそんな演出をしたのかは分からないが、その効果は要に対して抜群に出ていた。
「あの、お千代さんが山菜取りに出掛けたのは黒川金山という場所の近くなんですか?」
葵に尋ねられた彼女は、すぐに笑顔から表情を戻すと、
「ええ、この辺りの人は甲斐金山なんて言ったりしますけどね?」
光はそれを聞いて葵の方へと視線を向けると、
「さっき言ってた武田信玄の?」
と、小声で聞く。
「みたいですね?私も別名があるなんて知りませんでしたけど」
そんな二人のやり取りを全く気にしていなかった。というよりも気にする余裕も無かった要が、なんとか心を落ち着けて、
「で、お千代さんはどうしたいの?」
ハッキリと尋ねた。葵へと向いていた彼女の視線は、ゆっくりと要へと向かうと、
「自分には見えないものが見えると言って一緒に行った友人は私を病人扱いするんです。それに、この季節になると毎年山菜を取りに行くんですが、その度にあんなものを見ていたんじゃ、いつか本当に頭がおかしくなってしまわないかと不安で不安で。ですから、私が見たあの赤い着物を着た女性が一体何なのか、それを調べて頂けると嬉しいです」
「分かりました。僕たちもその場所へ行って正体を突き止めて来ましょう」
要が胸を張って言うと、短いメロディーと共にクエストが受諾された。
「でも、貴方は苦手なのでは?」
お千代さんに聞き返されてしまい、光と葵からは笑い声が零れた。
その後、町を回って『山賊討伐』『ドクツルタケ採取』『この荷物を届けて!』という三種類のクエストを受諾した。街道沿いへと戻ったついでに、薬屋で回復用の道具なども少し多めに調達し、
「これで俺がどれだけダメージ受けても大丈夫だね!」
と、楽しそうに言う要を先頭にして、先程訪れた古びた宿屋の前の細い道を馬に揺られながら進んで行く。
「要さんは、縮地があるんですから、ダメージ受けないように頑張って下さいよ!」
後ろに続く葵が言うと、
「いや、縮地は敵との距離を詰める為に覚えたからね?綱親師匠もそれで良いって言ってたし!」
「いつの間にか、随分仲良くなっちゃいましたね?」
葵は嬉しそうに笑みを零す。
「やっぱり戦闘が上手な人がお手本だったら、自分も上手になりそうな気がするじゃん?だから、自分からどんどんコミュニケーション取っていったよね?」
要も同じように笑いながら言う。
「素晴らしいです!そうですよね?他のプレイヤーさん達とどんどん話して有益な情報は得ていかないと損ですよね?私も弓が上手な師匠が欲しいです」
「弓が上手な武将って言うと誰だろうね?」
葵の言葉に、要の頭にはそんな疑問が浮かんだ。しかし、なかなかの難問なのだろうか、彼女からの返事が来ない。だから、
「パッと思い浮かぶのは日本史の授業でやった那須与一だけど、戦国武将じゃないもんね?」
「そうですね。戦国武将で言うと、立花宗茂とかですかね?当然、武器としてはありましたけど、鉄砲も出て来る時代ですからね」
そう言って説明をしてくれた葵は少し寂しそうな表情をしている。
「立花宗茂か、聞いた事ある気がする!」
「名前を凄くたくさん変えてる人なんですよ?」
またも笑いながら話をする葵の姿をチラッと見た要は、楽しそうに相槌を打ち、
「もしかして、プレイヤー名たくさん変えたら立花宗茂の号が貰えたりして!」
二人で笑い合った。
そんな中、一番後方を進んでいた光が、クエスト一覧を見ながら声を上げた。
「あのお婆ちゃんが持ってたクエストさ、ドクツルタケって名前が完璧に毒キノコだし、それを俺たちに取りに行かせて何に使うんだろうな」
彼の見つめるウインドウには白く小さな可愛いキノコの画像が映し出されているが、急な話に前の二人は一切返事が出来なかった。
17.05.17 誤字修正




