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群雄割拠のアレとコレ  作者: 坂本杏也
催し物と出雲阿国
41/296

【六】

「ってか、黒川金山って?」

 テンションの上がる三人の中で、意外にも一番早く正気に戻ったのは要で、彼は声を上げながら二人の顔を覗き込んだ。しかし、光は黙ったままゆっくりと首を動かして視線をずらし、葵は、

「私、武将の名前とかなら詳しいんですけど、地理はあんまり得意じゃなくて」

 申し訳なさそうに呟いた。

「いや、そこはとりあえず置いておいて、葵が言ってた宿屋の従業員に話を聞きに行けば良くない?多分、クエスト受ける時にそういう説明とかもしれくれる思う。というか、して欲しいし」

 光が首と視線を元の位置に戻しながら言った。

「そうだね。じゃあ、とりあえずその幽霊クエストを受けに行こう!」

 そう言って要が元気良く立ち上がり、すぐさまこの部屋を出ようとするが、他の二人は立ち上がらない。それが何故か気味悪く見えたのは、要の頭の中に幽霊という言葉が残っていたからだろう。彼は、おっかなびっくりしながら、

「ど、どうしたの?」

 不安そうに呟いた。

「いや、店に入ってさ、個室にまで案内して貰ったのに何も食べずに出て行くのはどうなのよ?」

 光が言うと、

「そうですね。ゲームの中だといっても、流石に気が引けちゃいますね」

 葵が賛同した。これがパソコンやテレビでプレイするタイプのゲームだったならば、二人も気にする事無く店を出ていたのだろうが、NPCの態度や会話、周りの景色に店の中など、全てがリアルであるが故の弊害へいがいなのかもしれない。

 結局、行く気満々だった要も二人の態度に観念して食事をしていく事になった。


 食事を終え、それぞれが違う効果を得て葵が聞いて来た宿屋へと向かう。例の立て看板まで戻り、街道を右へと曲がって道を一本逸れる。同じようにこちらの道にやって来る人は誰もおらず、街道側の賑やかさに比べたらこちらの道は寂しいものである。

 民家や商店などの建物も街道側は新築のような外観をしているのに、こちらは看板などもボロボロでお世辞にも見栄えが良いとは言えない。

「金山じゃなくて、先にこっちに幽霊が出るんじゃない?」

 宿屋の前に立つ要が外観に目をやりながら顔をしかめてポツリと呟いた。光も同意しようと思ったが、

「営業中なんですから、お店の人に聞こえちゃいますよ?」

 口の前に人差し指を一本立てた葵が、まるで子供に注意をするように言うと、

「じゃあ、行きますよ」

 そう続けて宿屋の暖簾のれんをくぐって中へと入って行く。二人はそんな彼女の後ろ姿を見つめていたが、すぐに光がその後を追い、

「営業してるなら、もう少し綺麗に建て直した方が良いんじゃない?」

 そんな文句を言いながら要も続いて入って行く。


 大きな玄関には外へ出掛ける時の為の物なのか、赤い鼻緒の下駄が何足も綺麗に並べられている。その先には年季の入った焦げ茶色の板張りの床が続いているが、掃除も行き届いているようであった。

 三人が中に入ると、番頭をしている初老の男性が嬉しそうに声を掛けて来た。

「三名様、お泊りですか?」

「あの、町の人に聞いて来たんですけど、黒川金山の近くで幽霊を見たって言ってる人がいますよね?」

 葵のその言葉を聞いた瞬間、男性の表情は一気に暗くなる。久しぶりの泊まり客だと思っていた旅の者が、ただ話を聞きに来ただけと分かり、あからさまにショックを受けてはいるが、

「きっと、仲居をやってるお千代の事でしょう」

 質問には素直に答え、更に、

「呼んできますので、そこに腰を掛けてお待ちください」

 玄関入ってすぐの所にある長椅子を手で示した男性は、そう言って宿の奥へと姿を消した。

「なんか、すごく悪い事をしてる気分なんですけど」

 不満そうに言う葵に、

「イベントで金をたくさん取ったら泊まりに来てあげよう!」

 要がそう言うので、

「今、泊まるという選択肢は無いんだな」

 笑いながら光がツッコミを入れた。


 それからすぐにえんじ色をした着物の若い女性がやって来て、

「あの、幽霊の話を信じて頂けるんですか?」

 挨拶なども無く、いきなりそう言った。突然の事ではあったが、それが本題だと分かっている三人はお互いの顔を見つめた後に、ゆっくりと頷いて返事をすると、

「数日前の事なんです」

 彼女は、小さな声でゆっくりと話し出した。


「私はお休みを頂いたので友人と一緒に山菜取りに行ったんです。でも、道沿いは誰かが来て先に取ってしまったのか、ほとんど残っておらず、少し危険だとは思ったんですが、手ぶらで帰るのも何だと思い、山の中へ入ったり、川の近くまで足を伸ばしました。そこまで行くと流石に人の手も入っていないようで沢山の山菜が取れたんです。で、日も暮れるという事で帰ろうと話していると、誰かに見られている感じがしたんです。それを友人に言ったんですけど、彼女は自分たち以外にも山菜を取りに来ている人がいるんじゃないの?なんて言ってたんですけど、その直後に見たんです。彼女の後ろを真っ赤な着物を羽織った女の人が通り過ぎて行くのを……」

 そこで彼女の話は終わり、

「思ったよりガチじゃん」

 一番ビビっているであろう要が無表情のまま呟いた。

17.05.17 誤字修正

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