【四】
柴田がヘッドギアを外し枕元に置いてある目覚まし時計を見ると、意外にも時計の針は進んでおらず、ゲームの中と外ではこんなにも時間感覚に差があるんだなと感心する。とりあえず、ベッドから起き上がり肩や腕を回して軽くほぐすと、
「要のあの感じだと今日はもう少し遊ぶだろうな」
それが嫌という訳では無く、熱中してしまって休憩を取れないかもしれないという心配のものだった。だから、彼はそのままベッドを降りてトイレへと向かう。
「別に漏れそうって訳でも無いんだけどな」
独り言を零しながら中へと姿を消す。
窓から見える景色は、昼間に比べると明らかに薄暗くなっている。最近は寒さも感じなくなって、暖かくなって来たんだなと思うと同時、同じくらい日が伸びている事も感じる。
トイレから姿を現して洗面所で手を洗った柴田は、先程と同じように軽く肩などを回し、自分の部屋へと戻って行く。そして、机に置かれたお茶を一口飲むと、すぐにベッドへと横になり、
「なんだかんだ、俺も結構ハマってるじゃん」
苦笑いで言いながらヘッドギアを頭へと付け直した。
光がゲームの中へと戻ると、既に要はこちらの世界へと入っており、いつもの様に技能一覧を熱心に覗いていた。暇さえあれば、そんな事をしている彼に対して光は、良く飽きないなと感心するが、
「ちゃんと水分補給とかしたか?」
そう声を掛けた。呼び掛けに応じて光の方を向いた要は口をパクパクと動かしているが、一切声が聞こえて来ない。
「え?何?ちょっと怖いんだけど」
声を掛けた相手に笑顔を向けられ、声を出さないまま口を動かされるというのは思ったよりも不気味な感じで恐怖感がある。しかし、
「あ、ごめん。今、綱親さんと喋ってたんだけど、チャットの切り替え忘れてた」
「え、ちょっとそれって凄くない?何言ってたか分かんなかったけど、俺に言おうとしてた事が全部綱親さんとの会話の方に流れてたって事でしょ?」
「うん、多分そう。急におかえりなさいって言われて、綱親さん慌ててたし」
要は笑いながら言うと、そのまま続けて、
「ちょっと待ってて、お礼言ってくる」
そう残したが、別に姿形がここから消える訳では無く、ただ姿が見えない相手との会話に音声だけ向かったという不思議な現象が光の目の前で起こっていた。これこそ、ゲームでしか味わえない不思議な体験なのだろうと思うが、
「何か思ってたのと違う」
独り言を再び零すと、
「何が違うんですか?」
後ろから葵に言われ、驚いて振り返りながら今、この場で起きているゲームならではの現象について説明をした。
「とりあえず、最初はクエスト探しからかな?」
戻って来た要に対して光が言うと、
「このゲームってクエストがどこにあるのか分かりにくいのが問題じゃない?」
いきなり不満を口にした。
「そういえば、最初のクエストも話を聞きたいって村の人に聞いたら、その流れでって感じでしたよね?あれは運が良かったんですかね?」
葵が最初の村で受けたクエストの事を思い出しながら言う。それに反応した要が彼女を指差しながら、
「綱親さんに話を聞いたんだけどね?あれは運が良かったって言うか、その村とか町にあるクエストは住民の人に困ってる人はいないか?とか、助けを必要としている人はいませんか?とか聞けば何かしら教えてくれるようになってるんだって!」
「あ、なるほど!やっぱり大事ですね?コミュニケーション」
葵は胸の前で手を合わせて感心する。要が綱親さんと音声チャットをした事に対して言っているのか、町の人と話さなきゃいけない事について言っているのかは分からないが、
「うん、凄い大事だよ!」
と、要は相槌を打ち、
「三人で手分けして聞き込みしてみよう!」
より効率の良い方法を提案した。




