【二】
仕事を終えた男たちで盛り上がりを見せる立ち飲みが出来る酒屋の前には、小さな屋台で酒まんじゅうが売られ、食事処にも人々が集まり、武器や防具を売る商店と素材や食材を売る商店にはプレイヤーが集まっている。
「買い物しようよ!買い物!」
活気ある雰囲気に完璧に飲み込まれている要は焦るように声を上げるが、
「まあ、待て待て。どういうお店があるのか一通り見てからでも遅く無いだろ?奥の方にもっと良い物を置いてる店があったら勿体ないだろ?」
「そうですね。それに武器や防具は自分たちで作れる可能性もある訳ですから、あまり高いものを今すぐに買う必要もありませんしね?」
葵の言葉に光は頷いて、
「それに馬を買う金が節約出来た訳だから、その分は有意義に使わないとな?」
しかし、それに納得出来ない要は、
「これだけ大きい町だったらさ、クエストもたくさんあるだろうし、またお金が入ると思うから少しくらい使っても?」
「いや、仮にクエストがたくさんあったとしても、しっかり完遂して報酬を貰ってから使い道については考えた方が良い。貰えるのがお金とは限らない訳だし」
「光はお金に細か過ぎるぞ!主婦かよ!」
「主婦な訳無いだろ。というか、要は製作をしたいって言ってたんだから、素材買うお金を残して置いた方が良いだろ?組合があるのはもう次の町だぞ?」
「あ、そうか。技能を覚えればすぐに作れるようになる訳じゃないのか!」
「いや、技能を覚えて素材があればすぐに作れるようにはなると思うけど、技能を覚えても素材が無いと作れない」
「揚げ足取るなよ!」
「まあ、要をおちょくるのもこの辺にして、もう少し町の中を回ってみよう?」
光の肩口に握った拳を打ち付ける要の姿を見ながら、仲が良いなと感心する葵。彼女の視線はそのまま二人の向こう側へと進み、狭くなっていた街道が一部分だけ広くなったその場所で止まった。
特に屋台や商店がある訳でも無いのに人々が集まり、何かを覗き込むようにしているその風景には人間の心理として何があるんだろう?という、興味が沸いてしまう。
「あそこ、何かあるみたいですよ?」
今度は、葵が先頭となりその場所へと向かうと、今まで一本道で続いていた街道に別れ道があり、そのまま真っ直ぐに伸びる街道にはまだまだ先にも商店などが建ち並んでいるが、右へと向かう細い道の方には、お世辞にも賑わっているとは言えない寂れた雰囲気が漂っていた。しかし、そちら側にもしっかりと商店などはあるようで、少し擦れてしまって読みにくいが、宿屋と書かれた看板の文字なども見えている。
その相反する二つの街道がぶつかっているこの場所には、立て看板があり、そこに書かれている何かを見る為に人々は集まっていた。葵は二人と共に人垣をかき分けて最前列へと顔を出すと、
「催し物情報?」
書いてある言葉をそのまま葵が口に出す。次に要が、
「出雲阿国第四回定期コンサート開催!だって」
「戦国時代的なこの世界観を一気にぶっ壊していくねえ」
光は皮肉っぽく言うが、
「でも、嫌いじゃない」
と、笑いながら続ける。
周りの人混みからは、
「おお、久々じゃないか!」
「場所どこでやるんだ?」
そんな声が聞こえて来る。
「これって自分でコンサートやるから見に来てくださいってここに書いたんですかね?」
葵は出雲阿国という人物よりも、この看板についてのシステムが気になるようだったが、
「お金払って載せて貰うってのなら他のゲームとかで良くあるけどね?」
要にそう言われ、納得したように頷いていた。
「あれ?この下に書いてあるのは公式のイベントか?」
光が指差したところを見ると『黄金週間』と大きな文字で書かれている。
「何これ?」
要が半笑いで言うと、
「ゴールデンウィークイベントって書いてありますね?金山で金を発掘して銭を稼ごう!ですって」
葵が説明欄を読んでそう言った。
一度、人混みから外へと抜けだすと、要が小躍りしながら、
「これって無駄遣いするチャンスなのでは?」
などと楽し気に声を上げるが、光は黙ったまま何かを考えているので葵が、
「光さん?」
と、声を掛けると、
「あ、ごめん。長政さん達はまだ知らないのかな?と、ちょっと思ってね」
「城からパクった技能取り直しのお金と新しい武器を買うお金かあ」
要は遠くに見える山々を見ながら思いを馳せる、そんな風に小さく呟いた。
17.05.14 誤字修正




