【十五】
町の中に一歩足を踏み入れて分かることは、ここが歴とした町であるということであった。ゲームがスタートした初期位置の物悲しさとは比べ物にならないくらいの賑わいで、行き交う人々は誰がプレイヤーで誰がNPCなのか、分からないほどだ。
先に中へと入って行った二人から遅れて到着したシロは、目の前に広がるその様子を見て首を傾げる。
そんな様子を後ろから見ていた兵藤が不思議そうにしながらも何故か憮然とした表情で、
「どうかしたのか?」
と、訊ねる。
「日坂っていう宿場町は、長い間漢字の表記が複数存在してた筈なんだよね?」
首を傾げた理由を訊ねたはずだが、またしても頓珍漢な返答に兵藤は顔をしかめる。
「それがどうかしたのか?表の看板には日に坂で日坂となってたが」
「そう、そこなんだよ」
シロがここまで熱くなり、大きな声を上げるのは出会って数時間ではあるが初めてのことであった。当然、テンションが上がって先に進んでいた茜音とイツツバも足を止めて振り返る。
「本当はこんなにも栄えている町のイメージじゃないはずなんだ。東海道でも難所と呼ばれている峠近くの町なのは間違いないから休憩や宿泊で旅人は居ただろうけど……」
どうにも釈然としない彼に、
「まあ、これだけリアルでも所詮はゲームなんだからその辺は諦めろ。俺たちがスタートした金谷だって町とも言えないような寂しいところだったぞ?」
両手を挙げて、正にお手上げというポーズを取りながら、
「まあ、実際はどうか分からんけどな」
と、付け加えた。
「何?町に着いて早々何か問題でもあったの?」
シロの声が気になり足を止めていた二人は駆け足で兵藤のところまでやって来る。
「問題ってことでも無いんだけどな。シロの奴は歴史が好きなあまりちょっとゲームの中の世界と自分の頭の中の妄想の世界がゴッチャになっちまってるようだ」
「え?」
イツツバと茜音は同時に声を上げシロの方へと視線を送る。
「さっきまであれだけ俺たちのことまとめてた人が」
イツツバが驚いたように言うと、
「でも、やっぱり歴史が好きだからこそ譲れないものもあったんじゃないかな?」
茜音が返す。
シロの意外過ぎる姿に普通に会話が出来てしまっているが、二人はその事実に気付かない。それどころか、
「俺、早く町の中を探検したいんだけど!」
と、声を上げる彼に同意するように茜音も隣で大きく頷いていた。




