【二】
中山道を西へと進む三人。先頭を行くのは光と葵で、二人はのどかな山並みや綺麗に耕された畑など田舎風景を目にする度に言葉を交わし、楽しそうに足を進めて行く。
今までずっと意気揚々と先頭を歩いていた要は、峠の茶屋を過ぎた辺りで二人から徐々に遅れるようになった。その原因は、彼が目の前に表示している技能一覧で、自分の取得していない技能の詳細説明を読んだり、どういう順番で使えば効率が良いか、などと言葉を零している。
時折、二人は足を止めて振り返るが、そんな様子に気付く事も無い。
「夢中ですね」
感心したように葵が零すが、
「せっかく風情がある景色なのに勿体ないよな?」
光が笑って言う。
「道は全て舗装され、周りは高層ビルに囲まれ、緑を探せば街路樹だけ。現実はそんなとこばっかりで、こういう景気を見ようと思ったら旅行にでも行かない限り無理でしょ?」
「そうですね。ゲームの中ってのは分かってるつもりですけど、見てるだけで気持ちが良いですよね?」
そんな会話をする二人にやっと追い付いた要は、一度立ち止まると技能の画面から二人へと視線を移し、
「乗馬の技能があるんだけど、馬に乗れるって事かな?」
目を輝かせて聞いて来た。二人はお互いの顔を見合わせて吹き出したように笑うと、まずは光が口を開き、
「まあ、これだけ広い世界を歩いて全て探索するってのは厳しいからな。移動手段は必要じゃないか?出来れば瞬間移動みたいな物も欲しいくらいだ」
「瞬間移動ですか?」
目の前にいる要の馬の話はすぐにどこかへ行ってしまい、
「大きな町から大きな町への移動が一瞬で出来る便利機能みたいなものがあれば楽かな?と。本当は行きたいところに一瞬で飛べた方が良いんだろうけど、それだとこういう風に散歩というか、景色を見てのんびり歩く事とか無くなっちゃうしね?」
「なるほど」
葵は納得したように頷き、顎に手を当てて何かを考える。
「これ、技能取得したら馬が出て来るとか無いかな?」
要は諦めずに馬の話に戻す。
「いや、さすがにそんなに優しく無いんじゃない?」
光はそう言って要と同じように技能一覧を開くと、その中から乗馬に関する技能を開き説明を読む。
「騎乗している馬の速度が上がるとか、騎乗している際の攻撃力が上がるとかだから、やっぱり馬は自分で用意しろよって事だろうな?」
「馬ってどれくらいで買えるんだろう」
少し落ち込んだのか渋い表情をする要が画面を見つめながら零す。
「そういうのも村の人に尋ねたら教えてくれるのかもな」
光はそう呟きながら、村に戻る事があってもクエストの受注や報告など別の用事で、話を聞く事をついつい忘れてしまっている事を反省した。
街道は徐々に太くなり、行き交う人々も少しずつ増えて来た。
茶屋ではなく、沿道に腰を下ろし休憩を取っている人や商品を並べてその場で商売をしている人もいる。所謂露店と呼ばれるものだろう。
少し寄って見てみるが、薬や食材に料理、布や木材、金属類など武器や防具を製作する為に必要になっていくであろう素材たち。そんな物が売られていた。
必要になる事は分かるが、大した額のお金を持っている訳ではないので、軽く物色をして再び街道を西へと進んで行く。
すると、今度は葵が一人遅れ始めた。要の時同様前を行く二人が時折足を止めて振り返ると、彼女はメニュー画面を開いて何かを黙々と打ちながら足を進める。そして、追い付くと、
「お待たせしてすいません」
と、頭を下げた。
「何か面白い技能でも見付けたの?」
要が聞くと、
「あ、いえ、さっきの露店がどれくらいの値段で売ってるのかメモしてたんです。参考になるか分かりませんけど、あんまりお金持って無いので出来るだけ安い所で買った方が良いですからね?」
葵のその言葉に、男二人は感心するように驚き、
「さすが、女子!女子力!」
などと要は少し大袈裟に声を上げたが、
「どっちかって言うと主婦っぽいけどな?」
光も続けて、恥かしそうにした葵と三人で笑い合う。




