【四】
しかし、彼女自身が自分で嫌がっているこの小さな事に悩んでしまう癖はこのゲームの中で解消されていく。そのきっかけを作ったのが他でも無いこのイツツバという男で、彼は明らかに振られているであろう相手にも臆することなく、
「仲間はいらなくてもさ、途中まで一緒に行こうよ。旅は道連れ世は情けって言うでしょ?知り合いの居ない可哀想な俺に情けを掛けてはくれませんかー?」
元気よく声を掛け続ける。
表立っては仲間など要らないと言っている茜音であったが、本音を言ってしまえば興味はあった。
あまり、深く付き合わずお互いが必要な時だけに一緒に冒険をするくらいのライトな付き合える友人であれば、お互いが余計な気を使わずにストレスなく遊べるだろうとは思っていた。しかし、ここまでしつこく声を掛け続けられると、そんな思いもどこかに消え失せてしまう。
「あの、いつまで付いてくるんですか?」
足を止め後ろを振り返って言う。少し離れた所に男は立っており、茜音の顔を見るや否や、
「いやいや、人をストーカーみたいに言うのは止めてよ!俺の目的地もこっちなんだから」
言って、二人が進んでいた進行方向へと指を差す。
ならば、
「じゃあ、私の先を歩いてください」
と促して男を先に行かせると今度は先程までの歩行スピードとはうって変わって、やる気無くダラダラとした歩行で進み始める。
元々、ゆっくりと周りの景色を見ながらのんびりと過ごす筈だった予定が、この男のせいでぶち壊しになってしまった。そんな思いが沸々と沸き上がり、
「いい加減にしてください!」
周りには他のプレイヤーがいるにも関わらず、大きな声でそう叫んでしまった。
それに気が付き、何があったのか?と足を止めるプレイヤーは数名でほとんどの人たちは厄介事は御免だとその場を後にしてしまう。足を止めたプレイヤーも何だ何だ?と野次馬根性で当人たちの姿形を見るだけ見て同じように過ぎ去って行く。そんな中、一人の男性プレイヤーが二人の間に入り、
「どうした?何かあったのか?」
と、声を掛けて来た。
彼は自分の額に掛かる長い前髪を左手で軽く流し、
「お前、スタート地点でやたらと色んな奴に声を掛けてた輩だろう?」
イツツバを指差し言った。
事の発端は自分の上げた声が原因であるのだが、その瞬間は第三者が介入して来るなどとは思ってもいないので、今一度冷静になると大事になってしまったと後悔しかしない。
「何?このゲームは他のプレイヤーに声を掛けちゃいけない訳?」
イツツバそう言うと、大きな溜め息を一つわざとらしく吐き出して、
「だったら、今のおじさんも俺に声掛けて来てるんですけど?」
苦笑いで言った。




