【三】
何をやっているのか?そう訊ねられても、自分自身が一体何をやっているのか理解していない。だから、答えようが無い。間を置いてそんな答えを導き出した茜音は、微笑みというよりは苦笑いと言った方が正しいイビツな笑顔を作って一度だけ頷くと、何事も無かったかのようにその場を後にしようとする。
「ちょ、ちょっとちょっと!」
同じ場所から焦ったように再び声を掛けられる。何がそこまで彼を突き動かすのかは分からないが、どうやら茜音に興味があるようで、
「俺もそこに行っていい?」
そう訊ねられたので、また黙ったまま首を縦に振った。
現実世界で出会っていてもきっと話をすることも無かっただろう。そう思ってしまうほど、隣にやって来た彼と自分ではタイプが違った。教室の隅にある自分の机で伏し目がちで本を読む文学少女とかたや教師の居なくなった教壇でウェイウェイ言っているお調子者。そんな感じがした。
「おお、向こうから見えないとこでもこっちまで来るとちゃんと作られてるんだ!」
顔の上に手を当てて川向こうの林を見ては感心する。
この辺りの街道は川に面している側が堤防のように盛り上がっており、その向こうを見ることは出来ないが、上がってしまえばこの世界がどれだけ作り込まれていて、どれだけ広いのかが少し分かる、そんな景色になっていた。
「遠くの景色も綺麗ですよね?」
彼の言葉に共感したからこそ自然と言葉が溢れた。彼は一瞬驚いたような顔をしたが、
「景色を見たかったからここに上って来たの?」
別にそういう訳では無いのだが、それでも良いかなと思い、
「そうかもしれないです」
言った茜音の笑顔はとても自然で美しいものだった。
男はしばらく茜音の顔を見つめたまま惚けていたが、
「あ、俺イツツバって言います。よろしく」
ハッと我に返り簡単に自己紹介をして握手をしようと右手を伸ばすが、彼女はそれに応じる事無く、
「私は茜音。よろしく」
と、だけ小さく呟くと再び会釈をしてその場から立ち去ろうとする。
「ちょい待ってって!俺は別に怪しい奴じゃないから!せっかくゲームを始めたんだけど、一人じゃ心細いからってスタート地点に居た人たちに片っ端から声を掛けたんだけど、皆どうしてか警戒しちゃって全然仲間になってくれないから、同じような人居ないかな?って探してただけなんだって!」
始まりの町で色んなプレイヤーに声を掛けていたのはコイツだったのか、と茜音は今一度つま先から頭の先までじっくりと品定めするように何度も繰り返し見て、
「私は別に仲間とか要らないから」
ピシャリと断った。
今一度、景色を眺めながら歩いて行くが、先程の言葉が本当に正しかったのか悩んでしまう。もう少し丁寧な断り方があったんじゃないか?相手に対して失礼にはなっていないだろうか?
そんな小さなことをいつまでも悩んでしまう自分の臆病なところにまた悩んでしまう。




