【二】
「それにしても景色が綺麗だなぁ」
本日何度目かの感動の声を漏らす彼女の瞳に映る景色は、現実世界に負けずとも劣らない。言ってしまえば現実世界でこんなにも自然が豊かな場所に行くことなど中々出来ないので、景色としてはこちらの方が上回っているかもしれない。
「さて、何を」
しようかな、と続く言葉を自分で止めてしまったのは、背後から聞こえて来る音が少しだけ気になったからだった。それは、自分自身がゲームを開始した時に降り立った始まりの場所付近の喧騒であり、再開を喜ぶプレイヤー同士の声や見知らぬ者同士のたどたどしい挨拶など彼女には今のところ無縁と思われる喧騒であった。
「べ、別に一人だから寂しいとか無いから大丈夫だし、一緒に遊ぶ人が居ても私みたいにのんびり楽しみたいって人ばっかりじゃないだろうし、そういう人たちと一緒に遊んでもお互いどこかにストレス溜めちゃうだけだろうし」
彼女に親しい友人の一人でも居たら、
「一人なのに良く喋るなぁ!」
と、でもツッコミが入ったのだろうが、残念ながら彼女は一人。足をゆっくりと次の町へと向けるだけであった。
始まりの町からの道はとても大きな街道になっているのだが、サービス開始直後とあって周りには自分以外のプレイヤーが数多く歩いている。ゲームをしているというよりも通勤通学で使っている電車から降りて駅の中を抜けていると言った方が分かりやすいかもしれない。
現実世界とは違う世界観を楽しむ為にやって来ているのにそんな事が頭の隅に過ぎってしまうのを良しとしない彼女は、少しだけ足を止め辺りを観察し、この大きな街道から逸れて探索を始める。
小さな丘や川が流れ、その向こうには林や森が広がっている。始めたばかりの初心者が立ち入って良い場所なのかは分からないが、
「お喋りしたいなら別にゲームじゃなくて電話で良いじゃん」
周りが親しげに話しているのが羨ましい彼女は理不尽な文句を垂れながら奥へと入って行く。が、街道から彼女の姿が見えなくなる寸前で後方から声を掛けられた。
「ねえねえ、お姉さん!」
ナンパのような軽い口調。振り向いたら面倒臭い事になるかもしれないと少しだけ考えたが、彼女は返事はせずに身体を回し首を後ろへと向けた。
そこには男性プレイヤーが一人立っており、自分を見つけやすいようにこちらに向かって笑顔で手を振っていた。
「何か用ですか?」
怪訝そうな顔で答える茜音に、
「何やってるの?」
彼は笑顔を崩すこと無く聞き返す。




