【一】
――『G.O.U』サービス開始直後。
大勢のプレイヤーが一斉にログインするという事を考慮して作られた世界には何十もの始まりの町が設定されており、少しでもサービス開始時の不具合を無くそうという配慮が随所に見られた。
それでも当然、数万人規模の処理を簡単に済ませるという事は難しく、茜音が降り立った金谷という町にも様々なプレイヤーがごった返しており、まるで巨大ターミナル駅前の有名待ち合わせ場所にでも居るかのようだった。
それでも彼女は自分のやる事を既に決めていたようで、スタート地点が見渡せる近くの丘へと登って腰を下ろすと、チュートリアルで教えられた通りにウインドウを開いて自分自身のステータスを流し見る。
特別詳しい訳では無いので一生懸命見たところでそれが良いのか悪いのかも分からない。だから、ただ見るだけ。そして、そんな作業が終わると最後にオプションを開いて自分の環境を設定変更する。
簡単に言ってしまえば、音量調整や画質調整などであるが、ゲームの中に入って楽しむゲームにおいてのオプションなどはほとんどが他プレイヤーとのコミュニケーションに関する設定が主になる。それをいじりながらも丘の下へと目を向ける。そこでは次々にプレイヤーが生まれ、様々なリアクションを起こす。
友人と一緒にゲームをスタートさせたのだろうか、姿を現してからすぐに仲良さそうに会話を始める二人組。
事前に集合場所を決めていたのか、近くに設置されていた立て看板の近くで何をする訳でもなく人を待つ者。
馴れ合いはせず、一人で黙々と辺りの探索やNPCとの会話に励む者。
一人では不安だと、知り合いでも何でも無いプレイヤーに適当に声を掛けパーティーに誘う者。
ゲームなどプレイしなくてもこの様子を傍から見ているだけでも十分面白い。人間観察が好きな人にはたまらないのでは無いか?そんな事を考える彼女の頬を強い風が吹き付ける。
「スゴイな。現実世界と全く同じ……」
初めて体験する仮想空間に改めて驚きながらも、彼女自身も行動を開始する。
誰かを誘ってゲームを始めた訳ではない彼女は、そのまま身体を起こして丘を滑るようにして下って行く。一緒に行動する友人がいないというのは少し寂しいかもしれないが、特にやる事も決めないでこの仮想世界をブラブラと放浪したい。
それが彼女、後の海北綱親こと茜音の最初の目標であった。




