【九】
――光たちがログアウトしてから数十分後。
商店のひしめき合う大きな町や城下町とは違い、周りに畑や田んぼしかない小谷城は今日も静かで、そんな静かな城の庭には、本日初めてログインしてきた茜音の姿があった。彼女は、日課とばかりにすぐにウインドウを開いて、登録されている友達の欄を確認するが、どうやら自分の思っていた結果では無かったらしく、小さな溜め息を一つ吐き出した。
彼女の見ているウインドウには豊臣秀吉と書かれた文字が記載されているが、それはログアウト中を意味する灰色になっており、まるで彼女自身の心の中と同じような色合いをしていた。
他にも誰かログインしていないかと次を表示する前に、小さな城の中からは数名の男性が何かを話している声が聞こえてくる。その声に釣られるようにして庭から縁側へと上がり、L字になった廊下をゆっくりと進んで行く。普段、長政らが居座っている部屋の一つ向こう部屋からその声は聞こえて来る。怪しげな密談のようには聞こえないし、物取りがここに押し入って何かのやり取りをしているようには聞こえない。
茜音はその真相を確かめるべく件の部屋の前で足を止める。
彼女は自分自身を落ち着けるように鼻から目一杯息を吸い込んで、音がしないように口からゆっくりと吐き出す。そして、更に自分自身を鼓舞するように大きく一度頷いて、一気に引き戸を開いた。
引き戸が一杯まで引かれ柱にぶつかる音に驚いたのは、中にいた三人の男で、それぞれがほぼ同時に声にならない声で叫ぶと、今度はその声に吃驚した茜音が時間差で声を上げる。他所から見ている人間がいればまるでコントでも見ているようなマヌケっぷりではあるが、
「落ち着け落ち着け」
まず誰よりも先に冷静になったのは清綱であった。彼はそう声を上げると、部屋の中にいた長政と清貞に向かって、
「綱親だ」
と、短く叫んだ。
茜音自身もそんな彼の声に冷静さをゆっくりと取り戻し、
「ちょっと、どうしてこっちの部屋なんですか?いつも通り向こうに居てくれればこんなに驚くこと無かったのに」
それに対して謝ったのは長政であったが、理由を話し出したのは清貞であった。
「周りの人間には聞かれたくない凄い情報をゲットしたからそれを長政と清綱に教えてあげてた訳よ!あ、そうだ!綱親の友達とかいう奴らにあったぞ!」
最後の言葉もそうだが、凄い情報という簡単には信じてはいけない気のする単語に、茜音改め綱親の眉間に深く皺が刻み込まれ、言葉を発していた清貞に向かって睨みを利かせる。




