【三】
氏政の言葉に、その場に居る誰よりもウズウズと身体を動かしていたのは小太郎と呼ばれていた若い男であった。彼にはプレイヤーネームや号など他のプレイヤーには存在する筈の頭上の表示がなされていないが、例の技能でそうしているのだろう。
「では、殿に好きにしろと言われたので……」
更に続きもあったようだが、氏政が手を伸ばして制したせいで言葉を止めてしまった。
「その殿ってのも今日から止め。ってか、そもそも私、女だし」
「それでは、何とお呼びすれば??」
家臣たちからそんな声が聞こえる。
「普通に号か、名前で良いよ」
それを聞いた小太郎が、
「氏政様から好きにしろと言う話が……」
今度は手だけでなく、
「はいはい、その様付けも禁止。普通に氏政で良いよ」
その発言に再び部屋中が騒がしくなる。
おかしな集団心理と言うものはあるようで、たかがゲームの中に存在する一つのシステムとして号が存在しているにも関わらず、そこに上下関係を見つけ、城主と家臣という関係でゲームを遊ぶのは小さい頃に遊んだごっこ遊びやままごとに似ているかもしれない。
そんなざわざわとした空気を切り裂いたのは、発信元の氏政でもこの場を仕切っている板部岡江雪斎でも無く、先程から度々声を上げている小太郎であった。
「では、氏政」
自分の主君である北条氏政に対して呼び捨てで名を呼ぶが、その主君自らが提言した事だ。周りからは心配そうな顔と声が飛んで来ている気もするが、何を怯むことがあるのか、そう堂々とした受け答えで続きを話そうとする小太郎に対して、氏政は可笑しそうに笑顔を向ける。
「他にこの会議で話し合うような事が無ければ急用を思い出したので失礼したいのですが?」
その言葉を聞いた氏政は、先程と変わらない表情のまま右手を前に出して促し、それを見た小太郎がその場から姿を消すのに数秒と掛からなかった。
「のっきー、行くぞ?」
と、仲間の名を呼んだ瞬間には屋敷を飛び出し庭の向こうへと走り去っていた。
呼ばれた仲間も話し合いの場に居たのだが、突然の事に慌てふためき一度躓き顎から床に転がってから小太郎の後を追った。
「何だか騒々しい奴らではあったが、うちにも中々骨のありそうな奴がいて嬉しいな」
ひとしきり見送った後に隣に向かって呟く。
「あれでも一応、忍びの端くれだからな?戦闘に関してはそこまで優秀とは言えないが、奇襲や揺動、夜討ち、諜報の腕は信頼してくれて良い」
「へえ」
と、短く相槌を打った氏政の視線は、直ぐに自分の前に並んでいる家臣連中へと向けられた。
「で、お前たちはどうするんだ?」




