【二】
その言葉の意味が分からないのか、氏政は自分へと向かってくる視線全てに対して睨み返し、
「だから、何だよ?」
と、再び悪態をついた。
部外者が見ればドキッとしてしまいそうな空気感にはなっているが、周囲にいる人物にとってはいつものことなのだろう誰一人として顔色を変えず、黙ったまま次の言葉を待っている。しかし、待てど暮らせど氏政から次の言葉がやって来る様子はなく、それに焦りを感じたところから徐々にざわつき始める。
「まあ、簡単に言ってしまえば、氏康がいないんだからお前がどうするのかを決めるしかないだろうって話だよ」
見かねた江雪斎が家臣たちの気持ちを汲んで呟き、
「お前の天敵に成りうるかもしれない存在だぞ?」
と、追加で付け加えた。江雪斎のその言葉に同意するように首を縦に振る者や一体どういう事を氏政が言うのかと固唾を飲んで見守っている者もいるが、
「だから、それは歴史上の話だろ?」
氏政が言い放った。
「ジジイに何をどうやって言われてるかは知らないけど、これはゲームだって何回も言ってるだろ?武将の号を持ってる奴は何百人と居てそいつらがそれぞれ好きなようにゲームをしてんだから、全てが歴史通りに進む訳無いんだよ。分かるか?」
最後にもう一度念を入れて力強く訴える。
これがどれほど家臣たちに響いているのかは、黙りこくった彼らを見ても全く見当も付かない。
「ジジイは歴史通りに話を進めたがってた強硬派とかいうやつだったんだろ?」
「自分からは決して言ってないが、そういう傾向は強いように思う。そうでなければお前をここには招いたりはしないからな」
とは、江雪斎の言葉である。
「それに従っといてあれだけど、今日からこの北条家はそれぞれ自分意思でその派閥ってのを決めて良いぞ?歴史通りに進めたければそういう行動を取れば良い。自由に遊びたい奴はそうすれば良い。そんで、ここに残るのも去るのも自由だ」
突然の発表に一堂に会した家臣団からざわめきが起きる。
それぞれが何を言っているのかは一切はっきりとは聞こえて来ないが、その中でとある一名がゆっくりと自分の右手を高々と上げて意見を述べたそうにして氏政の方を見つめていた。
「小太郎とか言ったか?なんだ?」
そう言われ、返事もせずに立ちあがった小太郎は、
「ならば、豊臣秀吉をどうするかも自分で考えて動いて良いのですね?」
尋ねる。それに応じた氏政は、
「ああ、お前が思うように楽しんでくれて結構」
そう言葉を作って話を終えた。
「これで北条家がバラバラになったら、お前さんは一体どうやって責任を取るんだ?」
隣で江雪斎が愚痴るように呟く。
「責任などどうして取る必要がある?これはゲームだぞ?楽しんだ奴が勝ちだ」
氏政は、本日初めての笑顔を見せてそう言った。




