【一】
――時を遡る事、数時間。
とあるプレイヤーの邸宅の大広間には数多くの人間が集まっていた。そこには数名であるが号を所持する人間もおり、中々に豪華な顔ぶれをしている。
入り口から一番奥に当たる位置に座っている若い女性の頭には北条氏政という号が表示されており、彼女は口元を抑えながら伏し目がちで下座に座る仲間たちを見ては深いため息を吐いた。
それに気が付いた右隣の男、板部岡江雪斎という号を所持した者が声を掛ける。
「どうかしたか?」
その言葉にチラッとだけ視線を向けた氏政は、
「いや、今日もジジイは来てないのかと思って」
今度はそれを聞いた江雪斎が苦笑いのような笑顔を零し、
「まあ、俺もお前に対して敬語なんて使ってないからあまり大きな声では言えないが、号としての立場で言えば父親になるんだからな?」
「……そこなんだよな」
女性とは思えない口ぶりで再び溜め息を吐き出した氏政は、そんな独り言で満足してしまったのか、十分な返事を江雪斎に返すこと無く黙ってしまった。
先程と同じような苦笑いで正面へと向き直す江雪斎は、一つ咳ばらいをして、その場にいる皆の注目を促すと、
「今日は、小太郎から一つ報告があるようなので、まずはそれを聞いて貰いたい」
そう言うと、彼の斜め前に座っていた男が返事もせずに立ち上がった。
「何だ?どうした?などと言われても説明のしようが無いので簡潔に結果だけを報告する」
そこで一呼吸置き、
「豊臣秀吉が出た」
言った瞬間、その場に居た十数名のプレイヤーから感嘆とも言える歓声が上がった。そして、つい今しがた注意されたばかりなのに、
「場所はどこだ?」
「どういった奴だ?」
「どっちの派閥なんだ?」
と、矢継ぎ早に小太郎に対して質問が飛んで来る。
「場所は東の大陸。どういった奴かは現在調査中。派閥は知らん。面倒だからもうこれ以上質問してくれるな。終わり」
いかにも機嫌を悪くしたという顔で腰を下ろす。
「小太郎。ありがとう」
と、素早く江雪斎がフォローを入れるがその甲斐は全く無かったようだった。
「こんな大きな話題から話をしてしまうと、全員が全員そちらにばかり興味を持ってしまうのが我らの悪いところでもあるが……」
二、三度咳ばらいをしながら話しているのは江雪斎なのだが、その場に居るほぼ全員が先程から一切何も喋っていない氏政の方を凝視していた。
「……何だよ?」
その視線に気付き悪態をつく。
「例のジジイが居ないからな」
と、江雪斎が鼻で笑った。
18.01.11 誤字修正




