【二十二】
一度訪れた事のある町に移動が出来る技能、簡単に言ってしまえば瞬間移動みたいなものなので、いくら現実世界に近いゲームの中だとしても実際には体験出来るようなものではない。それだけに新町へとやって来た光はもう一度しっかりと辺りを見回してそこが新町だと確認していた。
少しだけ早くその場にやって来た葵も同じように辺りを見回し、改めて自分が瞬間移動したんだなという事を実感していた。ちょうどその時、同じように移動系技能の獲得を目指してまだ訪れていない町へと向かっていた要は、道中に生えている薬草やその他薬の調合に使えそうな草などを採取しながらのんびりと山道を歩いていた。
「結構探してみると見つかるもんだな」
また一つ野草を摘みながら感慨深げに言葉を作る彼は、
「今まで通って来たところにもこれくらいの頻度で生えてたのかな?」
そう呟いて今まで冒険して来た中で通った街道を中心とした数々の道を思い出してみるが、当時の彼には全く眼中に入っていなかったようでひとかけらも記憶を辿ることが出来なかった。
「もしかしたらそういうところでしか採れない草とかもあるんじゃないか?」
一度過ぎ去った場所にも新たな冒険の楽しみを見つけた要であるが、自分自身が豊臣秀吉の看板を背負って山道をたった一人で野草を採取しながらフラフラと歩いている事に何の警戒もしていないようで、道を背にして野草を摘んでいる彼の後ろを商人や旅人が通過しても特別気にも留めていない。
「あ、豊臣秀吉」
そんな声が自分の耳に届いて初めて後ろを振り返る要。その視線の先には男性プレイヤーが二人並んで立っており、
「どうも、こんにちは!」
彼はそう挨拶をして少しだけ斜面になっている要の元までのぼって来る。
「俺達このゲーム始めて号持ってる人に会ったの初めてなんですけど、握手して貰えます?」
いつか、浅間神社であった五右衛門と共に囲まれた日の事を思い出す。
遠い目をしている要の前に二つの右手が差し出されるが、当然回想に浸っている要はそんな事になっているとは露知らず、二人の冒険者の前でボーっと仁王立ちをしたままだ。
「あのう、握手良いですか?」
改めて確認するように言われ、ハッと我返り、
「ああ、どうもどうも」
照れ臭そうに自分も右手を差し出して向かって右側に立つ男性から握手をしようと手を伸ばし、手と手が触れた瞬間、バチッという大きな音と共に目の前が真っ暗になり、何も身動きがとれなくなってしまった。
「おお!案外あっさりイケたな!」
と、喜びに沸く二人の声が聞こえてはいるが、自分では一切行動が出来ない。きっと何かの状態異常なのだろうが、それが分かったところで解く術はない。そして、どうしてこんな状態になってしまったのか、どうして自分が狙われたのかも全く分から無いのだ。




