【十七】
「あの、すいません!何があったんですか?」
人垣から顔を出した光は、何の躊躇も無く商人といがみ合う清貞へと声を掛けた。
その声に気が付いた清貞は、光の顔を数ある顔の中から探し出し、縋りつくような表情で、
「何もかんも無いよ!」
声を上げた。そして、すぐさま、
「聞いて聞いて聞いて!俺はさ、普通に買い物してただけなのにさ!いきなりコイツが品物を選んでた俺の手をガッと掴んできやがってさ!」
捲し立てるように言葉を作っていくが、商人風な男もそれに引けを取らず、
「お前が盗むのを俺はこの目ではっきりと見てるんだよ!だから、早く出せって言ってるのに」
「ちょっと、待って。お互いにそんな調子だから、こんなに人垣が出来るまで話が決着しないで同じことをいつまでも言いあってるんじゃないの?」
清貞も商人風の男も光の言ってる事が図星で何も言い返せない。
「とりあえず、俺が仲裁として間に入るから、双方の言い分をとりあえず聞かせて」
冷静にそう言った所で人垣を割って葵も光の隣にやって来る。今回の件とは関係の無い光が仲裁役として話を始め、更に彼の隣には更に素性も知れないプレイヤーが入って来ているのだが、場の雰囲気が雰囲気だけで誰もそこを突っ込もうとはしない。黙ったまま光の指示を聞き、まずは商人風の男が見たという清貞が盗みを働く瞬間の話を聞かせて貰った。
しかし、聞いても聞いてもあまり具体的な話が出て来ない。
彼は、
「俺はアイツが盗むのをハッキリと見てたんだ」
としか言わない。
それを光と葵と共に見つめている清貞は、呆れた表情のまま自分の顎を相手に向けて突き出し、
「ずっとアレだよ。もう何十回聞いたか分からん。そうこうしてる間に騒ぎだなんだって人が一気に集まって来てこんな状態で、逃げるに逃げられなくなったって訳。あ、逃げるって言っても別に本当に盗んだ訳じゃないからな?」
黙って聞いていた光はそれを聞いて頷くと、
「案外、盗もうとしてるのはあちらさんなんじゃないですかね?」
葵も清貞も何を言ってんだ?という顔をしているが、
「ちなみに、盗むのをハッキリと見てたんなら何が盗まれたかは見てますよね?」
光が尋ねると、
「ん?お、おう。当然だろ?アレだよ。この間、入荷したばかりの人気のヤツだよ」
終始フワフワとしたこの会話にもそろそろ慣れて来た。
「ねえ、おじさん。本当は何も見てないし、この人が何かを盗んだなんて嘘なんでしょ?でっち上げで人集めて店に呼び込もうとしてるのか、でっち上げられた人からお金をふんだくろうとしてるのか知らないけど、それ、止めた方がいいよ?」
鋭い目つきで睨むとすぐに笑顔を作り、
「商売やってるなら素直が一番だよ?」
そう言って商人風の男の肩を一回ポンと叩いた。




