【十】
一番近くに店を構えていた道具屋は少し古びており、良く言えば年季が入っていると考えられなくも無いが、ベテランの冒険者であっても入るのに躊躇してしまうような佇まいであった。
このゲームを始めてから幽霊が苦手であったりと、そういったオカルトが苦手という事が光と葵に露出してしまった要であったが、一人で遠出をするという喜びが勝ってしまったのか、気にせずに店の暖簾を潜った。
「とりあえず」
店の中に一歩足を踏み入れた要は、そう呟きながら山のように置かれた商品で狭くなった店の中を物色しながら進んで行く。
一人という事はつまり、普段葵に任せてしまっている回復を自分自身が担当しなくてはならない。
「回復アイテムは重要だな」
町から町を繋げているであろう道を進むだけだとは思うが、もしかしたら何かしらの戦闘に巻き込まれてしまう可能性もある。現に、数日前には迷宮へ向かう道中で盗賊のような連中に遭遇した。更には迷宮の中で訳の分からない二人組と戦闘になった事もある。
どこでどう戦闘になるか分からない中を一人で進んで行くというのは、中々簡単に出来る事じゃないんだなと改めて感じた要は、それと同時に普段一人でプレイすることが多いと言っていた茜音の事を尊敬する。ある程度の慣れや馴染みの場所という事もあるのかもしれないが、彼女は普段からしっかりと準備をしているんだろう。
「状態異常の薬も必要になるな」
そう呟いた要はそれらしき薬を棚に置かれた様々な瓶を覗いて探してみる。
「せっかく戦闘に勝ってもその後、毒で動けなくなったなんてダサすぎるしな」
独り言を挟みながら更に探すが見つからない。
薄暗い店内の雰囲気のせいもあるのだろうが、もう少し明るければ必要な物も探しやすいだろう。
要は自分で探すのを諦めて店のNPCに聞いて薬を出して貰おうと辺りを見回すが、誰もいない。それどころかこの店の中に自分以外の誰かがいるという気配がしない。
「セルフサービス的な店なの、かな?」
手前に置かれている様々な薬が入った棚を見上げながらポツリと呟くと、
「なんか、用かい?」
しゃがれた女性の声が聞こえ、
「ぬぅああああああああ!」
と、声を上げながら要がゆっくりと振り返ると、そこには背の小さなおばあさんがいつの間にか立っており、要の事をまるで不審者でも見るような目付で見つめていた。
「あ、すいません。変な声出しちゃって!ちょっと人がいるような雰囲気が無かったのに急に声を掛けられたのでビックリしちゃいました」
「ああ、そうかい」
とてもぶっきら棒に返す老女は続けた。
「で、何が欲しいんだい?」
「えっと、解毒薬が欲しいんですけど、この棚の中に無いみたいなんですけど、もしかして売り切れですか?」
「ああ、それなら今作ってるとこだから、もう少し待って貰えるかい?」
ちゃんとした客だと分かって安心したのか老女は突然、柔らかな表情と受け答えになり、静かに見せの奥へと入って行く。




