【九】
現実世界でいう豪華客船と大きな公園にある池に浮かんでいる手漕ぎボートくらいの差は感じてしまう。しかし、海を挟んで隣の大陸とは言っても目視できるほどの距離にある望月の港にはこれくらいの船で十分と言われてしまえば確かにその通りなのである。特別海が荒れている訳でもなく、短い距離を行ったり来たりしているだけなのだから。
二人は片道千銭という値段を支払って対岸にある望月へとゆっくり渡った。
馬以外の乗り物は新鮮ではあったが、波に揺られているだけで特別乗り心地が良い物では無い。揺れる波の音と下から眺める太閤橋を十分と堪能した。
望月の港に着き、船を降りた二人はそそくさと歩き出し、町へと入ってから、
「初めての船はどうだった?」
光が葵に尋ねる。
「うーん、現実世界とあんまり変わらない事には驚いたけど、考えてみれば馬よりも船の方が乗る機会は多いから特別新鮮でも無かったかな?」
「……確かに」
特に何かを求めて乗った訳では無いが、それでも返って来る手応えの無さに感想の持ちようもリアクションのしようも無かった。だから、光は空気を戻すように、
「よし、とりあえずここまで来れば宗久の屋敷はもうすぐだから、気合を入れて行こう」
言った。
ここから今井宗久の屋敷がある長久保までは町二つ。そう大した距離では無いので馬を飛ばせばすぐに着くだろう。もうお馴染みとなった二人乗りのスタイルで望月を出発すると長久保へと向かって馬を走らせた。
――ちょうどその頃、昨日ログアウトをした場所からゲームを再開した要は、ウインドウから友人一覧を開いて今、誰がインしているのかを確認していた。そこには見知った友人二人の名前はあるが、茜音の名前は無かった。
「バイトって言ってたもんな」
そう何気なく呟いた後に、光へと音声チャットを飛ばし、
「あ、もしもし?今、インしたんだけど、何やってんの?」
すぐさま現状を説明され、
「って事は、合流するってなると時間掛かるね」
難しい顔をしながら小さく声を漏らすと、光と葵が聞いた例の情報を教えて貰う。
「なるほど、じゃあ、あと何カ所か初見の町に行けばその技能が貰えるって事?」
言ってすぐにウインドウからマップを開いてまだ訪れていない町を探す。光と葵が向かっている北の大陸に続く街道沿いの町は既に全て制覇してしまっているが、その街道から外れた道を辿ればいくつかまだ足を踏み入れていない町が存在している。
「じゃあ、俺は個人的に近場のまだ行ってない町に行ってその技能取って来るよ」
かなり離れた距離にいる二人と合流するにはそれが一番の近道だと考えて、光にそれだけ確認を取ると音声チャットを静かに切った。そして、再びマップに目を落とすと、
「そういえば一人で冒険するのって初めてか!」
嬉しそうに駆け足で進む要は、旅の準備の為に近くに建っている道具屋へと向かう。




