【十九】
「俺は色んな所を転々としてるが、このゲームってのは世界がやたら広いせいか、拠点を決めて一つの場所に居着いちまうっていうプレイヤーが結構な割合でいるんだよ?そういう連中ってのはあんまり自分が居る大陸以外の事は詳しくない。だから、自分が見ても無いのにああいう噂が広がるんだよ」
商店に売られているという号のことを言っているのだろう。しかし、
「でも、実際に下諏訪の商店に置いてあるんだよね?」
「ああ、だがな、それを知ってた奴があの場に何人いた?商店で号が売ってるって話をどこからか聞いてきて、それをそこかしこで喋るだけ喋っておいて詳しい話は知りませんって無責任過ぎるだろ?ギャンブルを楽しむのも良いんだけどさ、そういう話をするならちゃんと自分で確認してから喋れって話だよ」
彼は何か思う事があるのだろう。この話題に関して物凄く熱くなっている。
話を振ってしまった事とその場、先程の賭博場に居た事を考え、
「なんか、すいませんでした」
と、頭を下げるが、
「アンタは良いんだ」
男が手の平をこちらに向けて言う。
「そんな号が存在してるって知らなかったんだろ?だから、誰の号でどこに売ってて値段は幾らなのか?って尋ねてたんだろ?」
紗々は頷きながら、どうして彼が自分だけに情報を教えようとしてくれたのか分かった気がした。
「まあ、ほとんどの奴が噂レベルの情報しか持ってなかったけどな」
そう言うと先程までの熱さはどこかへ行ってしまったようで、大笑いを上げていた。
「で、アンタは場所を知って自分の目で確かめに行くのか?」
箸で白身魚の刺身を掴むと口に運び、酒でそのまま流し込む。
「そのアンタってのいい加減にやめてくれません?」
紗々は自分の頭上を指差し、
「紗々《ささ》って名前がちゃんとあるんで」
力強くそう言った。しかし、男は黙ったまま何も言おうとせず、再び目の前に並ぶ料理の中から一つを選んで口へ運び、相も変わらず酒を流し込む。
「はい。ちゃんと自己紹介したんだから、そろそろそっちも名前を明かして下さいよ?このままだとアンタ呼びになっちゃいますよ?」
「別に好きに呼んでくれりゃ良い」
「ええー」
声を上げて紗々が反発するが、男は素知らぬ顔で今一度、
「で、紗々は下諏訪まで確かめに行くのか?」
その質問をぶつけて来た。
「西の大陸には何回か行ってるんだけど、南の方はほとんど縁が無いから行ってみたい気はしますね?」
言い終わった後にフフっと笑い声を漏らす。
そんなにも面白い話なんてあっただろうか?と男が首をひねるが、すぐに、
「ごめんなさい」
と、紗々から謝罪がなされ、
「実は私、徳川家臣団に入ってるんですけど、家康さんって何かあると直ぐに暇だ暇だって駄々をこねるので、今回の下諏訪は暇つぶしには良い機会かもしれないなって思って嬉しくなっちゃいました」
「ほう、徳川の……」




