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群雄割拠のアレとコレ  作者: 坂本杏也
駿府の城と家中集会
211/296

【十八】

「賭博場出たのにまだ名前隠してるんですか?」

 男が適当に決めたであろう飲み屋に入り、席に着いて一息ついたところで紗々が尋ねる。あの場にいる時は、周りにも数多く同じことをしている人間がいる為にほとんど気にする事は無かったが、外を歩くとやっぱり気になってしまう。

 このゲームにおける賭博場という遊びにはあまり悪いイメージは持っていない紗々だったが、それでも賭け事をしている場所という事を考えれば、あまり大手を振って出入り出来ない人も中にはいるんだろうなと考える。しかし、もう既にここは賭博場からある程度離れた飲食店なのだ。

「逆に浮きますよ?」

「別に博打がしたいから名前隠してる訳じゃないぞ」

 彼はそう言ったところで会話を止めて、手を挙げ店の人を呼んだ。彼自身が一緒に連れて来た紗々に何の断りも無く適当に食べ物と飲み物を注文すると、

「普段から俺は自分の名前を出してないんだ」

 機嫌良さそうにそう言った。


 その言葉の意味が分からず、

「それって何か意味あるんですか?」

「別にこれは意味があるとか無いとかの話じゃねえんだよ」

 頬杖をついたまま顔をグッと寄せられた分、紗々は少しだけ後ろへと距離を取る。そして、一体どんな言葉が返って来るのかと心して待っていると、

「この名前を非表示にするってのも技能を使ってるんだよ?分かる?つまり、名前を表示、非表示と切り替える為に技能をわざわざ使わないとならないって話しよ」

 真面目に聞いていて損をした。

「それってつまりただ面倒臭いって事ですよね?」

 思いきり肩透かしを食らった紗々は、自分が今、一体どんな顔をして聞き直しているのか想像もつかなかった。ただ、あまり不細工でなく、相手に失礼が無ければいいなと心のどこかで小さく思っていた。


「まあ、俺の話はどうでも良いだろ?」

 話を変えられ、そう言えばと思い出す。だから、彼の言葉に素直に首を縦に振り、

「はい。どうでも良いです。約束通りさっきの話を詳しく教えてください!」

「直球過ぎて、おじさんちょっと悲しいんですけど」

 冗談っぽく男は言うが、紗々は知らん顔である。

 と、そこに数種類の食べ物と二人分のお酒が運ばれ、

「じゃあ、乾杯でもして詳しい話をしていくか」

 二人はそれぞれ分厚い湯呑を手に取り、軽くぶつけ合って一気に口の中へと運んで行った。


「ここまで来て出し惜しみとか勿体ぶるつもりは無いから単刀直入に言うぞ?」

 相変わらず頬杖の上から言う男ではあるが、いよいよ話が本題に行くという事で、腰掛に今一度座り直して姿勢良く構える紗々の身体は緊張からか少々強張っていた。

「俺が一回見たのは西の大陸、下諏訪しもすわの町だ」

「……下諏訪」

 聞こえた言葉をそのまま繰り返して頭の中へとしっかりと刻み込む。名前はかろうじて聞いたことがあったのだが、それがこのゲームの中での事なのか現実世界で名前だけを聞いたの定かでは無かった。当然、紗々自身一度も足を踏み入れたことの無い町である。

「西の大陸の一番南に位置してるからな。あんまり知らないだろ?」

 ズバリ当てられてしまい、黙ったまま頷く。

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