【六】
それぞれの価格帯のチェックを終えた康政の姿は城の地下に設けられている倉庫にあった。
プレイヤーにはそれぞれ自分専用の倉庫というものが用意されているのだが、それとは別に城自体にも同じような効果を持ったものが設置されている。掲示板と同じように権限を許されている者ならば誰でも利用出来るのだが、この徳川家の倉庫に限って言えば家康がほぼ全員に権限を与えてしまっている為、元々大容量で普通であれば余って然るべきの倉庫が、物で溢れているのであった。
値段の高い素材や未使用の武器、防具などは他人に盗られないように自分の倉庫に入れておくものなのだが、
「この刀は?」
康政が見つけたのは棚の一番上に大事そうに置かれた未使用の日本刀であった。
地下にある薄暗いこの倉庫の中で見ても艶やかに鈍く光る漆黒の鞘。見るからに高そうで一体誰がこんな場所に保管したのか気になるが、その高級感が漂う一品に康政は伸ばした手をすぐさま引っ込めてしまい、持ち主を確認する事が出来なかった。
「ここの管理を任せられてるとはいえ、流石に武器を勝手に売ってしまっては……」
その場に誰もいないにも関わらず、何故か言葉に出してしまう。
「しばらく様子を見て、それでもここにあるようなら皆に確認しよう」
とりあえず、気になりはしたが後に回してしまう事にして、まずは元々の目的であった倉庫にある素材の中で値上がりしている物を捌いてしまおうと作業に取り掛かるが、康政という人物がそういう星の元に生まれているのか、何かをやろうとした次の瞬間にはどこからともなく邪魔が入ってしまう。
今回は、遠くの方から誰かが声を上げ、
「おーい!おーい!」
と、呼んでいる。それは徐々に近付いてくるものの、康政の場所をしっかりと把握しきれていないのか、時折遠くなったり、またゆっくりと近付いて来たりしている。仕方がないと溜め息を吐き出した康政は倉庫を出ると、
「今、行く」
いつもよりも少しだけ張った声で答えた。
康政が地下からの階段を上がって行くと、その先に立っている人物の姿が、足から徐々に見えて来る。
同じ徳川家臣の中でも一、二を争うほどしっかりとした身なりで、キチンとした言葉遣いと、リアルな年齢を尋ねた事は無いが、きっとしっかりとした大人なんだろうなと日頃から思っていた酒井忠次の姿がそこにはあった。
どっしりとした立ち姿からは全く想像が出来ないような不安そうな表情をしている彼は、康政が階段を上りきるのを待って、
「あの、伝言板はどういう事だ!」
開口一番声を上げた。怒っているという訳ではなく、心底焦っているそんな様子の彼に、
「ま、こんなところで立ち話もなんですから、ゆっくり座って話しましょうか」
普段、中々見る事の出来ない忠次のリアクションを楽しむように彼女は言葉を作った。
伝言板の知らせだけを見てやって来た彼に何かを説明するのはとても簡単であった。
彼はきっと勘違いをしているのだ。伝言板が更新され、登録さえしていればその知らせがゲームの中にいなくても手持ちの携帯電話などに通知が届く設定に出来る。きっと忠次は、それを見て急いでゲームにインして来たのだろう。
彼が準備をし、ゲームに入っている間に伝言板を更新した張本人である家康は昼食を取る為にログアウトしており、現在、徳川家の家臣で伝言板の権限が許されているプレイヤーは康政しかいないという状況から、彼はきっと康政が勝手に例の大会を開こうとしていると思っているのだ。
だから、一言。
「全部、家康の思い付きだからね?」
それだけで十分だった。




