【三】
その後、どこからともなく紙と筆を持って来た家康は、床にうつぶせに寝そべりながら足をバタバタさせて、楽しそうに何か落書きのようなものを書き出した。
剣術大会の事はもうどこかへ行ってしまったんだなと若干呆れた康政であったが、今度こそ集中して作業が出来ると何度めかの安堵をし、素材や武器、防具などの価格チェックの為に闇市場へと潜り込んだ。何千、何万という製作に打ち込む職人たちの汗と涙の結晶がここには溢れている。
ゴールデンウイークのイベントが始まった事により、金山の迷宮に向かうプレイヤーが増えた。そして、所持金を稼ぐためにそこを高速で周回、つまり効率良くお金を稼ごうとするプレイヤーが増えているのである。
迷宮内に出て来る敵モンスターやボスなどには弱点が存在しており、それは武器であったり属性であったり部位であったりと様々あるのだが、自分が今、使っている武器ではどうにも効率良く周回が出来ないと考えるプレイヤーは当然、新しい武器や防具を購入する。
そう、時期的に今が一番、物価の上下動が激しいのである。
「やっぱり、かっちゃんはもう殿堂入りって事で良いかな?」
落書きをしている筈の家康からそんな質問が飛んできたせいで、鉱石関連の値段の動きを分かりやすいように折れ線グラフにしていた康政の手が止まった。ウインドウを避けるようにして顔を出した彼女は、
「落書きなんか始めるから、もう飽きちゃったのかと思ってたけど、ちゃんと考えてたの?」
言いながら、寝転ぶ城主に目をやると、彼女の目の前に置かれた紙に大きな文字で『かっちゃんのしょぐう』と書かれている。
「そんな言葉どこで覚えて来たの?」
前回圧倒的な差で優勝してしまった優勝者を次回の大会でどういう待遇にしようかという意味の処遇だとすれば間違ってはいないが、本当に家康がそこまでの意味を知っていて書いているのだろうか?何も知らない人間が見たら忠勝が処分でもされるのでは無いかと色々勘ぐってしまいそうだ。
「別にいつも使ってるけど?」
口を尖らせてお澄まし顔で言う彼女は、あまり子ども扱いされるのが好きではなかった。その事をそのt態度と言葉でハッと思い出した康政はすぐさま口を開き、
「忠勝が出ないと彼自身も不満だろうし、それにやっぱり大会自体の盛り上がりにも関わって来ると思うけど?」
「でも、かっちゃんが強すぎると皆が嫌になっちゃわないかな?」
「優勝が出来ないからって?うちにはそんな奴はいないよ」
彼女の持ってる不安をことごとく打ち消してはみるものの、中々納得はしてくれない。だから、思い付く限りの案を上げてみる。
「じゃあ、忠勝は前回の優勝者って事で、今回の優勝者が決まった後でエキシビションマッチって形で戦って貰うってのはどう?他にもトーナメント表で忠勝だけスーパーシード扱いにしても良いし」
カタカナが随分と並んでしまったが大丈夫だろうか?と康政は不安だったが、
「そっか、優勝は出来なくても戦いが出来れば、かっちゃんは大丈夫だよね?」
と、笑顔で笑っていた。




