【二】
何を思い付いたのかと思えば誰もがまず最初に行き着くであろう当たり前の事であった。
それでも人が作業をしているすぐそばで暇だ暇だと声を上げられ管を巻かれるよりはよっぽどマシで、何かに集中してくれれば少しは大人しくなり、集中して作業に取り掛かることが出来ると、康政が安堵したのも束の間。
「予定気になる?ねえ、気になる?」
いつの間にか起き上がり足を伸ばした体勢で座っていた家康が康政の方へと向いて嬉しそうに尋ねる。彼女の少女という年齢のせいなのか、その真っ直ぐでキラキラとした瞳を向けられ言われてしまうと、どうしてもしっかりと答えてあげないといけないという気持ちにさせられてしまう。
それは今、正に彼女からの視線を受ける康政だけの事ではなく、徳川家康に仕えている家臣連中ほぼ全員に言える事であった。彼女よりも一回り、下手すると二回りも年上の家臣からも決して馬鹿にされること無く、厚い信頼を得て慕われている。
康政は彼女には聞こえないくらいの声量で、
「仕方ないですね」
と、呟くと作業の手を止めしっかりと彼女の方へと身体を向けて、
「家康はゴールデンウイークにどういう予定を立てたの?」
微笑みを作って聞き返した。
彼女は待ってましたと言わんばかりに食い気味で、
「四月に剣の大会開いたでしょ?」
大きな声で言った。
剣の大会。彼女はそう言っているが、家臣である酒井忠次が徳川家臣連中で何かイベントでもしてみようという提案で開催された身内での剣術大会の事であった。確かに四月の中旬頃に開催されたのを康政もしっかりと覚えていた。だから、
「うん。私は参加しなかったけど、結構盛り上がってたね?」
参加者全員がくじを引いてトーナメント表に振り分けられ、城内の中庭で一対一の模擬戦をし、勝った者が進んで行く勝ち上がり形式の大会であった。終始圧倒的な強さで優勝したのは、康政と同じように家康から号を受けた本多忠勝という男。
主催者である酒井の定めた賞金を受け取り大笑いしていたのは実に彼らしいと康政は思っていた。
「あれをゴールデンウイークにもやるよ!」
あらかたそういう事だろうとは思っていたが、
「ゴールデンウイーク期間内は流石に急過ぎるんじゃない?前回の時は忠次が一週間くらい前から計画立ててやってたよ?」
「大丈夫大丈夫!今日の夜に皆にやるよって言えば、明後日までには間に合うよ!」
「大丈夫かなぁ?」
と、心配そうな康政を横目に、
「前はかっちゃんがダントツで優勝しちゃったからなあ。なんか良い方法無いかなあ?」
伸ばしていた足を胡坐へと変え眉間に皺を寄せ、口を尖らせた家康は、面白い戦いが見られるように何か作戦を考えているようだが、
「前から気になってたんだけど、どうして忠勝の事はかっちゃんって呼んでるの?私も忠次の事も呼び捨てでしょ?」
康政に話を振られ、
「ん?半蔵さんは半蔵さんって呼んでるけど?」
「ああ、そうだったね。それは今は置いておいていいや。かっちゃん呼びの話」
「別に簡単な事だよ?忠次と忠勝で分かりにくいから、かっちゃんって呼んでるだけ」
「確かに忠ってとこまでは一緒だけど、そんなに分かりにくいかな?」
首を傾げて聞き返してみるが、家康の興味は既に自分主催の剣術大会に向いてしまっているようで、康政の方を見向きもしていなかった。




