【十八】
「移動が面倒臭い」
ぶらぶらという擬音そのものの様子で新町の中を進んで行く光は、今まで喉元まで出てきても無理をしてのみ込んでいた言葉をついに口に出してしまった。それを半歩後ろからついて行く葵は苦笑いで彼の横側を見つめる。
そんな二人は、制作して貰った武器の受け取りの為に香香香の元へと向かおうとしているのだが、彼女の師匠である村正の工房があるのは隣町である倉賀野。しかし、隣町とはいえ移動には馬を使わなければならないほどの距離がある。移動系の技能があれば一瞬で向かえるのだが……。
「迷宮に移動する技能はもう一つ迷宮を攻略すれば貰えるって言ってましたよね?」
先程まで一緒に冒険をしていたまひさとりさから教えて貰った事を確認として葵が言うと、その言葉だけで彼女が何を言いたいのか悟った光は、
「うん。そっちの情報を得る為に必死になり過ぎてて、町を移動出来る技能について聞くの忘れたんだよね……」
ここからの移動が本当に嫌なのか、口元を歪め眉間に皺を寄せながら嫌そうに返した。
「お二人にチャットで聞いてみます?」
「いや……」
と、言ったところで、口だけでなく動きもすべて止まってしまった光は、その状態のまましばらく考えて、
「なんかちょっと恥ずかしいからそれは無しでいこう」
「聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥って言うよ?」
「うーん、迷宮に移動出来る技能の取り方を聞いた時に一緒に聞けば良かったんだけど、慣れてないのと緊張で色々忘れてたよね。そのままの流れで迷宮に入っちゃったし、盛大にお別れしたのにすぐさまチャットで聞くのって何か恥ずかしくない?」
「まあ、言われてみれば確かにちょっとダサい感じはする、かな?」
「でしょ?それにまひささんとりささんに聞くのは一時の恥になるかもしれないけど、このあと香香香さんに聞いちゃえば一生どころか恥なんてかかなくて済むからね?」
少しドヤ顔で言う光だったが、
「面倒な移動をしてからね?」
揚げ足を取るように葵に言われ、
「そうだった……」
と、再び肩を落とした。
倉賀野へと繋がる出入り口にやって来た二人は、目の前から真っ直ぐに続いている道を黙ったまま眺めていた。初日はこれを歩いて移動していたというのにたった数日で馬の移動すらも面倒に感じてしまうなんて贅沢な考え方だなと自分たちでも理解はしているが、
「さて」
足取りだけではなく言葉までも重くなる。
道具一覧から馬を表示する光とは対照的に葵は特にウインドウも開いておらず、ただ光が馬を出すのを待っている。そんな彼女の姿を不審がるように横目で見ながら馬をその場に召喚すると、
「私、後ろに乗っても良い?」
葵からそんな提案がされた。
「別に良いけど?」
「私ね、映画とかドラマとかで見た自転車の二人乗りっていうのにすごい憧れてた時期があったんだけど、実際にやると怒られちゃうでしょ?だから、今がチャンスかな?って」
「自転車じゃないけど、二人乗りは二人乗りだな」
恥ずかしそうな表情をしたまま馬に跨った光は下で待つ葵に向けて手を差し出し、それを掴んだ彼女を思いっきり引っ張り上げる。葵も身体を使って後ろに跨り、
「うん、意外と良い感じ」
それが出発の合図になった。
「振り落とされないようにしっかり捕まってろよ?」




