【十九】
とりあえずの思い付きでそれらしいことを言ってみた五右衛門であったが、それが意外にも確信を射ているようで、対面している二人はお互いに小さな声で会話を交わし何か密談をしている。それが一段落ついたのか、付き人はこちらを向き直って、
「分かりました。そこまで言うなら実践してみてください」
力強く言うが、
「ただし!」
と、言葉を付け加えて条件も含めて来た。それは、
「もし、こちらに何か不利益が被りそうになった時は貴方一人の責任で対処をして下さい」
確かに五右衛門の考えた作戦であり、彼の思い付きでのものになるのだが、元はと言えば阿国を逃がしたいからという理由で相談を受けていただけに、あまり乗り気はしない。だが、これは五右衛門にとってはまたと無いチャンスになっている事も事実であった。
仮に五右衛門の立てた作戦のどちらかが成功した場合は、自分の手柄だと褒美でも何でも貰えば良いし、逆に二つとも失敗したとしても阿国側への不利益を考えて姿をくらまして逃げてしまったという事にすれば約束をしっかり守ったという事で最低の評価だけは免れるはずである。
「分かった」
安堵の表情をグッと堪える五右衛門は静かに言うと、ゆっくりと立ち上がった。
廊下を進み、とりあえず号を隠して真田八郎という仮の名前を表示させて神社の外へと向かう。軽くお賽銭とお参りをしてついでにおみくじを引いて、少しでも関係者ではない感を繕うが、元々関係者では無いのでそれに効果があるかどうかは分からない。
ゆっくりとした足取りで神社の中を抜け、辺りにポツリポツリとファンの姿が見えて来たところで、
「おお、どうした?俺はまだライブの熱が抜けきらないよ」
まるで誰かと音声チャットしているかのように独り言を呟いた。
「ん?おう、それで?」
少しわざとらしいが、ちょっとで周りの人間に気になって貰わなければこの作戦は意味が無い。だから、
「うん、うん。今、どこにいんだよ?」
適当に相槌を打ちながら一番人の多い所に来たタイミングで、
「え、次のライブの情報が?どこ?どこ?」
出雲阿国のファンであるならば食い付きそうな言葉で周囲のプレイヤーを釣る。
「はあ?立て看板?おい、もしもし?ちょ、おい!もしもーし」
五右衛門本人も惚れ惚れするほどの自画自賛の迷演技であったが、それでもやはり食い付くプレイヤーはいるようで、
「ちょっと、今の話聞こえちゃったんだけど」
そう言って若い男の三人組のグループが寄って来た。
勝手に溢れそうになる笑顔を必死で押し殺しながら、五右衛門は困ったような焦ったような表情を作ると、
「え、あれ?聞こえてた?」
白々しく答え、相手の返事を待つ間も無く、
「実は阿国さんの次のライブの情報がどこかの町の立て看板に出たらしいんだけど、途中で通話が切れちゃって……」
そんな話を聞いては、周りのプレイヤーもテンションが上がり、
「ちょっとそれぞれ色んな所に飛んで確認してみようぜ?」
話は良い方向に流れていると思われたのだが、
「とりあえず、確認したらもう一度ここに戻って来よう」
五右衛門の表情が一気に沈んでいった。




