【九】
顎髭の若い男性に先程の玄関まで案内され、
「あんたら藤兵衛さんのお願いを聞いてくれたんだな?」
唐突に言われた。しかし、彼はどうやら三人の返事を待っているようでは無いらしく、
「聞いてくれたのは有り難いんだが、止めておいた方がいい」
そう続けざまに言った。
「なんでですか?」
要が訪ねると、男性は神妙な面持ちとなり、
「あんたらはただの旅人だろ?格好を見れば分かる。こんな田舎でしか行動してないと言っても相手は盗賊だ。申し訳ないが、あんたらに勝ち目は無い」
「俺もそう思う」
光が同意したことに男性をはじめ要と葵も驚いている。
「だから、出来れば防具や武器は最低限揃えたい。少しだけどお金を持ってることも確認したし」
それを聞いた顎髭の頭の上に黄色の吹き出しが突然現れ、
「蔵の中に古くなった武器があったんだが、藤兵衛が処分しても構わねぇと言っていたから、もしそれで良ければ譲ろうか?」
また新たなクエストが発生した。
「え?武器くれるの?」
すぐに要が反応し、飛びつかんばかりの勢いで身体を前に出し、男性へと詰め寄る。しかし、男性はそんな彼に驚く様子も無く言葉を続け、
「流石にただでやるという訳にはいかんから。少し使いを頼まれてほしいんだが」
男性は自分の頭を少し掻くと、その手でそのまま懐に手を入れ手紙のようなものを一つ取り出した。彼はそれを手に持ったまま恥ずかしそうに話し始めた。
「この村から南に下って行くと隣の村があるんだが、その途中に団子を名物にしてる峠の茶屋があるんだ。そこで働いているお雪という女の子にこの文を本庄村の松からだと渡して欲しい」
そのタイミングで彼の頭の上に白字で『松』と表示された。それに気が付いたのは、少し離れて話を聞いていた光と葵の二人だけで、
「何なに?団子屋の看板娘ちゃんに恋文?」
一人、そんな事を知らない要はニヤニヤとした表情を浮かべたまま再び男性に詰め寄り、
「それを渡して来るだけでいいの?」
と、手紙を指差して言う。
その指を追うように光と葵の視線は手紙へと向くが、
「どういう意味だ?」
視線よりも高い所から言葉がやって来て、それに再び要が返す。
「返事は聞いて来なくて良いの?って話。その手紙にはどういう事が書いてあるかは分からないけど、一方的に気持ちを押し付けるような内容じゃ無ければ、相手だって何か言いたい事が出来るでしょ?それは聞いて来なくて良いのかい?」
男性の表情は徐々に曇っていくが、黙ったまま首を縦に振る。
「分かった。じゃあ、届けてあげるから。武器の方は宜しくね」
そう言って、藤兵衛宅を後にした。
男性が居なくなった事を確認し、
「どうして名前の表示があのタイミングで出て来たんですかね?」
葵が言った。NPCにそういう話は聞かせてはいけないという彼女なりの配慮なのだろう。
「多分、何か意味があるんだろうけど。そういえば、さっきの老夫婦もお婆さんは名前が出てたけど、お爺さんには名前の表示が無かったね?」
光が言うと、
「ああ、俺もそれ気になった。でも、藤兵衛さんには表示されてたし」
要も続けるが、すぐに話題を変え、
「まあ、色んな人と触れ合ってればそのうち分かるでしょ?そんな事より、今は団子屋の看板娘でしょ?」
「クエストだから行くけど、お前はどういう人なのか興味があるだけだろ?」
「あ、バレた?普段ゲームやってる時はこういうおつかいクエストって全然興味無かったんだけど、これは何か友達の告白に協力してるみたいな感じで楽しい!」
「これだけリアルだからなあ」
光は辺りを見回して改めて感心する。
「あの、一つ思ったんですけど」
要の後ろ、光の隣を歩いていた葵がそう零し、
「今、多分夜中ですよね?この世界内の時間的に」
『あ』
二人が揃って声を上げたタイミングで、三人の目の前に『ゲーム開始から一時間』と表示が現れた。その下にも言葉が続いているが、要が先周りをして、
「リアルで何か異常が起こって無いかの確認の為にこういう表示が一時間ごとに出るんだって。まあ、トイレ休憩とか水分補給とかご飯とかね?一応、体調の変化とかにはアラームとかが鳴るみたいなんだけど、こっちにいると何にも分かんないからさ」
という事で、三人は一旦小休止を挟むことになった。
17.04.30 誤字修正




