【十六】
ダメージは受けていないはずの信玄であったが、そこからたちまち動きが鈍ってしまう。先程の技能が原因で動けないのか、それとも別の理由なのかは分からない。だから、攻撃を繰り出した光と要は急いでそこから離れようとしていたが、そんな敵の動きを見てその場で態勢を立て直した。
それを見て茜音も少しだけ距離を詰める。信玄の動きに注意しながら、ウインドウを開いて先程自分が使った技能が次に使えるようになるまでの時間を確認する。
ゆっくりと動き出した信玄は未だ変わらずに目の前にいる要を狙っているようで、刀を構え直して上段から振り下ろす。技能を使っていないその速度は十分に視界に捉えられるレベルで、要は自分の刀で受けて弾き返す。
彼が狙われている間に光は、せめて防御面だけでも現状を維持したいと、要から順番に防御力上昇の技能を上書きしていく。これも効果時間がもう少し伸びればと思うが、今はたくさんの技能を少しずつ試して選りすぐっていきたいという考えで一つに技能ポイントを割く余裕は無い。
光は技能を唱えながらゆっくりと葵の方へと下がって行き、遠巻きに要と茜音が協力しながらボスの攻撃を捌いているのを見つめる。要が自由に動いている中を茜音が上手にサポートにまわり、ダメージを極力受けないようにしながら立ち回る様は流石としか言いようがない。
『技能:命中率上昇』
葵のそばで光の声が聞こえた。
前衛のサポートの為に信玄とやりあっている二人にばかり注意しており近付いて来た光に全く気付かなかったようで、
「わ!いつの間に?」
「あの二人の連携が予想以上に良いから少し余裕があるかな?って思ってさ」
苦笑いで言うと、
「さっき風林火山の山を使ってから信玄が通常攻撃ばっかりなんだけど、どう思う?」
葵は、自分の予想が当たっていた事を少しだけ自慢しようと思ったが、目の前で頑張っている二人がいることを思い出し、喉の奥に飲み込むと、
「私達の技能と同じでクールタイムがあるんじゃ?」
「まあ、確かに連続で使われたら勝ち目なんか無くなりそうだしね」
「しかも、他に技能が無い」
クールタイムが存在していたところで、技能が複数あれば別の技能は使える訳で通常攻撃しかしてこないという事は、この信玄には『風林火山』しか無いという可能性はあり得る。
頷きを作って聞いていた光は、
「俺、二人と葵の間に入るから、攻撃参加してくれて良いからね?」
そう残して前線へと走って行った。
『技能:集中』
戦闘が始まってからジッと構えるだけだった葵は、身体の中に溜まっていた空気を全て吐き出すとそこで息を止め目を細める。そして、信玄の頭を狙って矢を放つ。
刀で押し込まれる茜音を助ける為に信玄の左側から斬り掛かる要の頭の前を通り過ぎた矢は見事信玄の兜を射抜くが、敵視が葵へと向いた程度で体力を削るには至らない。
葵も同じく信玄を睨み返し、
「こっちに集中してると危ないんじゃないかな?」
先程よりも一メートル程高い場所を狙って次の矢を放った。
ここまで押されている自分達の反撃の狼煙になるように。
17.09.24 誤字修正




