【十五】
「徐かなること林の如く」
その言葉と同時に敵の二撃目が来ると構えるが、視界の中央で捉えていた彼の姿が足元からゆっくり消えていき、完全に背景と同化してしまいどこにいるのか見えなくなってしまった。
「何?ちょっとこれ強すぎじゃん!」
要は声を上げるが、
「見えてなくても相手が近付けば足音が聞こえるはずだから耳に集中して」
光の言葉に、少しの音も聞き逃さないと全員が自分の耳に集中するが何も聞こえては来ない。ゆっくりではあるが確実に過ぎて行く時間に焦りといつ攻撃が来るのかという恐怖に挟まれ、
「光、聞こえない!音もしないんじゃない?」
焦ったように声を上げる要の視線に再び敵、信玄の身体が浮かび上がった。
ホッと胸を撫で下ろす一同ではあったが、彼の頭上に表示されていた行動制限のアイコンがゆっくりと消えて行きその場に再び緊張が走る。次の攻撃は先程よりも広い範囲で、確実に自分達に届く。前衛の三人は改めて刀を握る手に力を入れた。
葵も集中力を切らさないように弓を構えるが、同時に信玄の技能についても考えていた。
技能を使う度に口にしている言葉から考えると、あの技能は『風林火山』で間違いない。数々の逸話がある武田信玄の中でも一般に知られている一番有名なものだし、ゲームの技としても使いやすい。
上から順番に使っていて「風」と「林」は見たから残っているのは「火」と「山」。イメージとしては超火力技の「火」に防御技の「山」という感じはするんだけど……。
「侵掠すること火の如く」
信玄は言いながら目の前の要へと刀を振りまわしながら近付いて来る。
後ろに下がりながら彼との距離を取るのは簡単だが、要の背後には更に葵がいるという事を考えると簡単にはそういう判断は出来ない。見えない程の剣技や存在が無くなってしまうような先程の技よりは、まだ見えているだけ恐怖感が少なく、それが真正面から攻撃を受けようと要に判断させてしまったのかもしれない。
振り回される刀の動きを見て自分の刀で防ぎいなす。隙があれば反撃でも食らわせようかと考えていたが、金属同士が高速でぶつかり合うこの甲高い音を聞いてしまうと、そんな事をする余裕が無いのは一目瞭然であった。休みなく続く連続攻撃に徐々に防御が追い付かなくなり、受けきれなくなった一撃一撃が要の体力を削っていく。
『技能:滝のぼり』
信玄の右後方から茜音のそんな声が響き、地面から蹴り上がりながらの斬り上げ攻撃が信玄の体力を減らす、しかし、すぐに攻撃目標が要から茜音へと移り、空中で身動きの取れない彼女に信玄の振り向きの遠心力を利用した横の斬撃が見舞う。だが、そこはやはり戦闘に慣れた彼女、刀身をぶつけて寸でのところで防ぎいなした。
信玄の攻撃はそれだけでは折らずに横の斬撃の斬り返しがやって来た。茜音の左肩を狙う様に斜め上からの斬り下ろし、
『技能:旋転切り』
自分に向かって来る刀に旋転切りをぶつけ、自らが回転する力で後方へと吹き飛ばされるが、空中で一回転をして体勢を立て直した彼女は、無難に着地を決め再び刀を構える。
それに触発されたのか要が声を上げ信玄へと斬り掛かる。囲むように位置していた光もサポートするために一気に距離を縮めてそのまま刀で斬り付ける。
「動かざること山の如し」
二人の斬撃は確実に信玄に届いているのだろうが、体力は全く減っていない。




