【十二】
「とりあえず、回復はこれで大丈夫だと」
要の左肩を見つめながら葵が自信無さそうに呟いた。
今まである程度の戦闘は経験して、その度に回復と呼ばれる技能を使ってきた。視界内に表示される体力バ-を気にしてはそれが無くならないように調整、管理してはいたものの、実際に傷口から出血を伴う箇所の治療というものは経験が無かった。
彼女の視線の先に映るその場所は綺麗に元に戻っているように見える。
「もう一人で先走ったりしないで」
相も変わらず要の隣に寄り添う様に座っていた茜音から聞こえて来た言葉に、全く同じような言葉を吐き出そうとしていた光は、バレないように喉奥へとゆっくり飲み込んだ。
「豊臣秀吉の技能が優秀な事は事実。でも、敵の強さがちゃんと分かっていないのに一人でツッコむのはバカのすること。イベントじゃないこの迷宮には昨日も来てるけど、出て来る敵モンスターの強さがその比じゃない。それに、イレギュラーな事もたくさん起こった」
彼女はゆっくりと息を吐き出して、深呼吸するように深く空気を吸い込むと、
「私も甘く考えてたところがあったのは事実だし、それはしっかり反省してる。だから、要もしっかり反省して」
真っ直ぐな瞳で淡々と語る彼女の迫力に圧倒されたのか、それとも自分にもかなりの大きさで過失があった事を内心認めたのか、
「うん、ごめん。ちゃんと反省してる」
彼らしくないしおらしい態度でそう言った。
黙って見つめていた光は、
「茜音ちゃんってしっかりしてるよね」
ゆっくりと近付いて来た葵にそう話し掛けられ我に返ると、先程感じていた嬉しさと寂しさを混ぜ合わせたような複雑な心境を彼女に見透かされまいと無理矢理笑顔を作って、
「兄弟の一番上だったりして?」
当たり障りのない適当な返事で話を合わせた。
「そういうイメージあるある。長男長女はしっかり者で末っ子はちゃっかりしてるとか」
「俺、一人っ子なんだけど、そういう場合は?」
「良くも悪くも自由人って感じかな?」
葵は言ってすぐに訂正した。
「あ、でも光はそういう感じがしないかも」
これまで付き合ってきた中で何か感じることがあったのだろうか、彼女は苦笑いで言う。
「じゃあ、それは一応褒められてると取っておくかな?」
同じように彼も苦笑いで返し、談笑をしている要と茜音のそばへと近寄って、
「って事で、これからは四人で固まってボスを目指そうか?まだまだ先は長そうだし」
未だに迷宮内で手に入るツルハシを手に入れていない事を話に混ぜながら、要と茜音を先頭にした先程と似たような陣形で足を進めて行く。敵が少々厄介だと考えると前衛を二人にしてダメージを分散しながら戦う方がそれぞれ個人に負担が掛かりにくいと判断したからだ。後衛が自分一人というのには一抹の不安を覚えてはいるものの、唯一の回復技能持ちである葵を後衛にはさせられない。
前を進む二人を眺めながら、
「葵には本当に色々助けられてる。ありがとう」
要の治療の件といい、その前の自分が参加していた戦闘。それだけじゃなく過去の戦いも全てと言って良いほど彼女には助けられていて、ここまで少しずつ積もっていた小さな感謝が些細なきっかけで溢れ出てしまった。
「気にしないで。そういうゲームだし、私はこういう役回りって意外と嫌いじゃないから」




