【五】
二人が向かう先からは、
「技能:刀狩りじゃぁあああああ」
という随分ふざけた掛け声が鉱山内に反響して聞こえて来る。
技能の名前や声で誰が叫んだかは火を見るよりも明らかで、走りながら聞いていた光は視線を足元へと落として肩を落とす。そんな彼の姿を見ながら小さく笑いを零した葵は、
「新しい技能が試せるからテンションが上がってるだけ、だと思うよ。それに、元気があって良い」
若干たどたどしくはあるが、聞こえて来た要の掛け声のおかげで先程までの緊張は解けたようだ。
「そうだけどさ。あれが天下統一をする男だと思うとゾッとしない?」
葵の笑い声につられるように光もそんな事を言いながら笑みを零していた。
大きく左へと曲がる先に二人の背中を見つけ、
「お待たせ」
と、光が声を上げると、茜音が振り返って会釈を返す。しかし、すぐに視線を正面へと戻すと、要が相対している敵モブ:金鉱夫へと向き直る。要の技能である刀狩りを受けて既に攻撃力の下がっている金鉱夫がツルハシを振り回して斬りかかって来るが、その派手な動きとは裏腹にツルハシは要のところまで届いて来ない。
「何、今の?」
軽く息を整えながら見守っていた光が頭に浮かんで来た言葉をそのまま口にすると、
「きっと、太閤検地という技能の効果だと思います」
前を向いたまま茜音が説明した。きっと光と葵がここに到着する前に敵に向かって新しく覚えた技能を試していたのだろう。移動制限を掛けられ攻撃力を下げられた敵モブにはもう既に現状を打開する力は残っておらず、要の通常攻撃だけであっさりと倒されてしまった。
「流石、天下の豊臣秀吉強い」
葵が驚くように言ったが、それに気分を良くした要は、
「そうでしょう!じゃあ、この勢いでじゃんじゃん行こう!」
「あんまり調子に乗るなよー」
という光の注意の声は猛然とダッシュで先を急ぐ要の耳にはもう入っていないようだった。
「なんで、走る?」
と、その時、背後から音が聞こえた。
決して人の声とは聞こえない音。それは誰かの溜め息のようでもあり、悲嘆の叫びのようでもあった。瞬時に振り返った光の視線の先には鎧兜を装備したボロボロの武者が一人立っていた。
ゆっくりと腰の鞘から刀を抜いたソレは、抜刀と同時に光目掛けて斬りかかる。光も負けじと素早く抜刀して迎え撃つ。
「葵、援護頼むっ」
一撃を受けて多少の焦りが生まれる。
ダメージを受けた訳では無いのだが、思っていたよりも攻撃力が高い事が分かったからだ。
「うん、任せて」
背後から聞こえる葵のその声は、前よりも緊張感が無くなっているが、その時よりもずっと頼り甲斐のある力強い声に聞こえた。
要を追い掛けていた茜音は、後方での違和感に気付き、足を止めた。
光の指示通り先に行ってしまう彼を追うべきなのか、それとも今まさに敵に襲われている彼らを助けるべきなのか。
「茜音ちゃん、大丈夫だから!」
聞こえた声の全てを信じ、彼女はただひたすらに前方へと駆け出した。




