【七】
五右衛門を見送った三人は、それぞれ違った表情を見せていた。
一番やる気に満ちていたのは、号を得たばかりの要だった。彼は、両手で握りこぶしを作ると目を輝かせて、これからどうやって今井の屋敷に突激するのかを尋ねて来る。
「さて、五右衛門から許可も貰ったし、今井さん家に行きますか?」
それに応じるように光が頷くが、
「そんな友達の家に行くみたいに」
と、質問の意図とは関係の無い言葉で曖昧に返しては、隣に立つ葵へと視線を向けた。
「葵は大丈夫?疲れてない?」
「疲れてはいないですけど、少しお腹は空きましたね」
それもその筈、お昼前からゲームを開始して、時刻はもうすぐ夕方になろうとしている。丸六時間以上飲まず食わずでゲームをしているのだから、そろそろ休憩は取っておきたいところだろう。
二人の様子に何かを感じ取った要が、
「あれ?これは一回休憩に入る流れかな?」
三人全員が納得した所で、時間も時間という事でそれぞれが食事を済ませる為に少し長めの休憩を取る事になった。
「早めに戻って来た人は適当に時間を潰してるって事で」
光のそんな言葉を聞きながら三人はそれぞれ現実の世界へと戻って行った。
ヘッドセットを装着したままベッドから置き上がった光一は、ゆっくりと頭からそれを引き剥がして溜め息を吐き出した。そして、傍らに置いたヘッドギアを見つめながら軽く肩を回して、
「ベッドに寝てるとは言え、流石にあれだけ長時間やると身体が凝るな」
ついでに首を回してストレッチをする。
「これからはもうちょっとこまめに休憩入れた方が良いかもな」
そう言ってベッドから起き上がる。
ノソノソ、そんな擬音がピッタリ当てはまるようなゆっくりとした歩きでキッチンに向かった。冷蔵庫を開けて中に入っている食材を確認するように見回すと、何かを思い付いたのか、二度程頷いて静かに扉を閉めた。
「こりゃ、コンビニだな」
半分諦めにも似た悲しい声だった。
服を着替えた光一は玄関の鍵を閉めながら、
「五右衛門さんがいない状態でどうやって探りを入れようかな?」
いよいよ現実世界での独り言もゲームに浸食され始めたなと気付きながらもあまり考えないように努めて近くにあるコンビニへと向かった。
休みの日に気が向けば自炊もするが、何せ男の一人暮らしだ。面倒だと思ってしまえばこんなものである。流石にコンビニエンスというだけあって便利であるし、呆れるほど暴飲暴食をしなければそこまでお金が掛かる訳でも無い。いつ料理をするのか分からないまま冷蔵庫の中にスーパーで購入した食材を放置しておくことを考えれば、経済的にもそんなに多くは変わらないだろう。
光一はパスタとサラダを買い物カゴへ入れ、そこでふと考える。ゲームをやるという事であれば、好きな飲み物や簡単に食べられるお菓子などを買い込んで、そういう物を消化しながら楽しむのだろうが、自分達が今やっているゲームは向こうの世界に入ってしまえば、現実世界で何かをする事は出来ない。本当に特殊な体験をしているんだなとしみじみ思った。
それと同時に家の戸締りもしっかりしておこうと心に固く誓ったのであった。




