【五】
光が吉のおみくじ、葵が中吉のおみくじを手に持ったまま要の元へと戻ると、先程よりも数は減っているものの未だに見知らぬ人影がポツリポツリと見えている。彼らも豊臣秀吉の号を持った要が目当てなのだろうと見ていると、どうやらそうでは無い人も中にはいるようで、何故か五右衛門の方へと寄って行く。
「あの人は、一体何をしてんだろ?」
光が見つめる視線の先、プレイヤーが数人集まる五右衛門。そんな彼の頭上には先程まで表示されていた『真田八郎』ではなく、馴染みのある『石川五右衛門』と、赤い字で表示されている。
太閤橋を渡る時に目立たないようにと光がお願いして、技能を使って一般プレイヤーと同じ表示に偽装していたはずなのだが、彼はそれをどうやら解除してしまったようだ。
「要さんがたくさんの人に囲まれてたから、人を分散しようとしてやってくれたんですかね?」
光の言葉と現在、自分の目の前で起こっている事を見ながら、大体察したのだろう。葵は五右衛門へのフォローを入れながら的確に答えた。が、どうやら光は納得出来なかったらしく、
「いや、ただ単に自分も目立ちたいってなっただけじゃ?」
呆れた声でそう呟き、更に続ける。
「五右衛門さんって一応、盗賊みたいな事してて追われてた訳でしょ?」
「そうですね」
「で、手元には号の表示を偽装する便利な技能があるのに、ずっと自分の号を表示したままだった訳じゃん?」
「あ、そういえばそうでしたね。光さんが言わなかったら私達もあの技能の存在を知らなかった可能性すらありますからね」
「せっかく号を手に入れたんだから誰かに気付いて欲しいって気持ちは分かるけど、捕まるかもしれない可能性があるなら少し慎重に行動した方が良いと思うんだけど」
自分の話をされているのを知ってか知らずか、二人がその場に戻って来た事に気付いた五右衛門が要に声を掛けて二人は、光と葵の傍へとゆっくりやってくる。それに合わせて周りにいたプレイヤーもそれぞれ手を振ったり声を掛けたりしてその場から離れて行く。
「あ、何?おみくじ引いて来たの?良いなー!」
二人が手に持っているおみくじを目ざとく見付けた要は、羨ましそうに声を上げた。
「神様にお願いしたから大丈夫だろうけど、これからの旅の安全とクエストの調子はどうかな?って思って引いて来た」
そう言って光は持っていたおみくじを開いて二人へと見せる。それを見ていた隣の葵も数秒のラグはあったものの同じように結果を開いて見せた。
「二人とも中々良いじゃん!俺もちょっと引いて来よう」
三人を置いて走り出した要を追い掛けて五右衛門もおみくじの元へと向かった。
その後、若干テンションの下がってしまった二人の足は予想以上に重くなってしまった。
「大吉が出るまでおみくじ引き続ける」
と、子どものような駄々をこね、中々出発が出来ずに、いつまでもいつまでもウダウダと文句を言う二人の尻を光と葵が叩きながら馬へと半ば無理矢理乗せた。そして、この町へ到着した時とは前後を入れ替え、光と葵が先頭を走って目的地である長久保を目指すことになった。




