【四】
お参りを終えると町中でもあったように、秀吉の号を見るプレイヤーの視線を複数感じた。別に自分が見られている訳ではないのだが、光と葵はそれが少し気になってしまっていた。こういうものは当人よりも周りの人間の方が気付きやすいのかもしれない。
「すいません。あの、もし良かったら握手とかして貰っても良いですか?」
要から少し距離を取っていた事が直接関係しているのかは分からないが、二人組の女性プレイヤーが静かに近付いて来ては要に対してそんな事を言っていた。それがきっかけになったのだろう。遠巻きで様子を伺っていた視線の元である数人のプレイヤーも彼女らと同じように要の元へとやって来る。
最初は要もどう対応して良いか困惑していたのだが、一人一人と握手をしていく内に慣れて来たのか、とても良い笑顔で手を握り返しては、他愛も無い世間話などを織り交ぜた会話をしていた
「葵、向こうにおみくじが引けるとこがあるみたいだけど行ってみる?」
何となく手持無沙汰だった二人は、そんな光の提案でおみくじを引きに行く事にした。
後方で盛り上がっている要の声を背中で聞きながら歩を進め、
「まさか、号があるだけでこういう状況になるとは」
現実ではあり得ないだろうこの状況に驚きを隠せない。そういった様子で光が呟いた。
「本当に吃驚です。長政さんは周りにほとんどプレイヤーがいませんでしたし、そもそも浅井の領地内でしたからね?」
「確かに。そういえば村正さんと会った時も山の中にある誰も来られないような自宅だったからな」
思い出しながら言う。
村正と出会う前に酒井忠次にも出会っているのが、あれも鍛冶組合の建物の中という少し特殊な環境であったし、五右衛門との出会いも周りに誰もいない牢獄の中という事で、号を持つ人間が外に出ているとこんなにも注目を集めるものかと驚いてしまう。
「有名鍛冶職人の隠れ家って何だか素敵ですね」
「素敵って言うほどの建物じゃなかったけどね?」
「そうなんですか?」
葵は可愛らしく笑って言う。
「家具もしっかり揃って無いような空間でさ。鍛冶の道具だけが揃ってるって感じかな?」
「でも、職人さんって感じがします。自分の使う道具だけは気にしてる感じが」
彼女は再び笑っていたが、すぐに表情を戻した。どこかで見たようなそんな違和感を覚えた光が、
「どうした?何かあった?」
突然、尋ねられた葵は、
「あ、いえ、何でも無いです」
そう慌てたように否定した後に言った。
「これからは、秀吉さんって呼んだ方が良いんですかね?」
これまで出会った号を持つプレイヤーには漏れなく号の方の名前で呼んでいた。彼らにも当然プレイヤー名は存在しているのだが、やはり号の方がインパクトがあるという事と分かり易いという理由でそのままそちらで呼んでいる。しかし、要呼びで慣れてしまっている彼が突然秀吉になってしまったのだ。小さな事ではあるが、気になるところかもしれない。
「どっちでも良いんじゃない?そういうの気にするタイプでも無いし」
「ですね」
再び笑顔を見せてくれる葵。それを見るとより一層先程の違和感が気になってしまうが、光にはもう一度詳しく尋ねる勇気は無かった。
「あみくじ百銭ですって」
だから、
「なんだ、現実世界と一緒じゃん」
そんな適当なくだらない返しで、その場の会話を取り繕う事しか出来なかった。




