【七】
光と葵はその言葉に聞き覚えがあった為にお互いの顔を見合わせた。そして、どちらともなく、
『昨日、清綱さんから聞いた名前』
声に出した後、光だけが続けて、
「要が気を付けろって言われてた……」
そこで自然と名前が出たので、光は視線で周りにいるはずの要を探すが、見当たらない。おかしいなとは思ったが、
「清綱?誰かにその衆の事を聞いたのか?」
五右衛門が気になった様でぐいぐいと会話に入っては尋ねて来る。葵が、大分端折って短めに昨日お世話になった浅井長政と家臣の赤尾清綱に信長信者が集まる『第六天魔王』という衆がいるが、あまり良い話を聞かないから気を付けろと言われたことを伝えた。
「ほほう、あの浅井長政と知り合いなのか、お前さんらはやっぱり只者じゃ無いって事だな?」
何故か嬉しそうに彼がそう言うので、
「そんな事は無いとは思いますけど、五右衛門さんといい長政さんといい、運と言うか縁には恵まれてる気はしますね」
葵は照れも相まった笑顔を見せて言った。それと同時に心に少しモヤモヤとした感情が見え隠れしていたが、それを表には出さないようにグッと力を入れて閉じ込め、そっと鍵を閉めた。
五右衛門は、葵の小さな変化には当然気が付かずに話の続きをしようと様子を伺っており、光は未だに要の姿を視線だけで探していた。
「それで、その第六天魔王なんだけどな?」
満を持して本筋である話に話題を戻そうとしたが、
「あの、要がいつの間にかどこかに行ったみたいで、姿が見えないんですけど?」
話を再び中断させられた五右衛門もその言葉には折れるしかなく、光と同じように辺りを見渡して要らしき人の姿を探してみるが、当然そんなものは無く、
「要さーん!」
と、葵が名前を呼んでみるが、返事は一切聞こえて来なかった。
愕然としている光は、
「嘘でしょ?この数分の間に迷子になるとか幼稚園児かよ」
「いやいや、要さんも大人ですから迷子とは言わないんじゃないですか?先に町の中に入って色々お店回ったりしてるんですよ!きっと。さっきも町通過する度に寄りたそうにしてましたし」
「そうだな。とりあえず、落ち着いて三人で手分けをして町の中を探してみるか。とりあえず、見つかっても見つからなくても十分したら、またここに戻って来る事。いいな?」
五右衛門は二人の顔を見比べながらそう言って、三人は頷き合うと、それぞれの足で町の中へと向かって行った。
町の中央を走る街道はそのまま大きな橋へと繋がっており、入り口を抜けた場所からその橋の先端が見えている。かなりの大きさに感動をするが、今はそれどころじゃないと気持ちを切り替える。光は、そのまま直進して橋へと向かう道を探す。そこには道の両側に商店が隙間無く並んでいる為、要ならばこういう場所で何か面白そうな物を見つけては、夢中になっている可能性があると踏んだのだ。
一軒一軒しっかりと店の中まで確認して行く。
五右衛門は町からゆっくりと海へと下るように作られている緩やかな坂道を下っていた。船での移動を考えていた為、先に港に来ている可能性があるだろう考えての事だ。
葵は、どこを探そうかとしばらくは入り口そばで考えていたのだが、
「ウインドウ開いて音声チャットで本人に直接聞いてみれば良いんじゃ?」
要が目の前からいなくなってしまった事に焦っていた三人は、ここがゲームの中だという事を完全に忘れてしまっていたようだ。葵も今の今まで、離れた場所に居ても会話が出来る便利な機能がある事を失念していた。
ウインドウを開いて友人一覧から要を呼び出すと、優しい声で問い掛ける。
「要さん、どこにいるんですか?急に居なくなっちゃうから皆で今、探してますよ?」
しかし、返事は来ない。しばらく同じように問いかけてみたが、全く反応が無いので、
「もしかして」
葵の頭には一つの仮説が浮かんでいた。
それは、前日に遅くまでゲームをしていた要があまり睡眠時間を取れていなかった為、所謂寝落ちをしてしまった可能性である。それならば急に何の断りも無く目の前から忽然と姿を消してしまった事についても説明がつく。
そんな事を考えている間にもう一つの仮説を思い付く。
今は、大体お昼過ぎの頃合い。もしかするとお腹が減ってしまって、昼食を取りに行った可能性である。
「あ、でもそれなら流石に一声掛けてから離席するかな?」




