【五】
安中の町に入る。ここは川越とは違い関所などは置かれていない。規模もそこまで大きくは無いが、街道を往来する人の姿はそれなりに見えるのでそこまで寂れた町という感じでも無い。
先頭を行く五右衛門は馬に跨ったまま、降りるような素振りも見せない。きっとこの町もスルーして一気に北の大陸を目指すという事なのだろう。光がそんな事を考えながら、黙って彼の後について行くと、
「この町のクエストとかも無視しちゃうの?」
光の左斜め前を同じように馬で良く要が、自分の右斜め前を行く五右衛門に声を掛けた。先程、どういう手段で渡るのかを楽しそうに話していた彼が、まるで寄り道をしたいと言っているかのようだった。
「とりあえず、姫様からのクエストが終わらない限りは動きにくくて仕方ないだろ?」
冷静に要をたしなめる五右衛門はしっかりと前を向いたまま後ろを振り返ること無く言った。そして、
「それよりも」
同じように声だけで、そんな前置きを作ると、
「今井宗久のことをどうやって調べるか考え付いたのか?」
今回のこの大移動もそれが思い付かない限り何の意味も持たない。
しかし、作戦を考えている筈だった光からは、それとは別の話がおもむろに切り出された。
「それなんですけど、何かこのクエストってちょっとおかしな感じがするんですよね」
あまりの事に五右衛門だけでなく、要と葵も光の方を向いた。そして、その言葉の続きを求めるように黙ったまま視線を送り続ける。
「仮に殿様の様子がおかしくなったのが今井宗久が原因だとして、その今井さんはプレイヤーじゃないですか?今までのクエストでプレイヤーが対象になってるものなんて無かったんですけど、そういう事ってあり得るんですかね?だって、今井さんが都合が悪くてゲームにログインしなかったらこのクエスト一生終わりませんよ?」
力説した光の意見はもっともであった。その証拠に光以外の三人の誰からも反論などは一切来ない。
しばらく馬に揺られたまま無言の時間が過ぎ、安中の町を過ぎた辺りで葵が満を持して口を開いた。
「例えばですけど、仮に本人がいなかったとしても、その人の周りにいるプレイヤーやNPCに話を聞いて、そういう事をやってる証拠というか証言みたいなものが聞ければクエストはクリアになるんじゃないですかね?」
「とりあえず、手掛かりさえ掴めればクリアになるって事か。それはあるかも」
光が納得していると、
「別に捕まえなきゃいけないとは言われてないしね?」
要も混ざって来た。彼は、笑顔を作って光へと視線を向けるが、言葉とは裏腹に光の表情はまだまだ納得が出来ないという感じで、眉をしかめ、下唇を軽く噛んで何かを考えているので、
「光は、何か別の意味があると思った訳?」
その苦悶の表情から何とか解放してあげようと、質問を投げた。
「うーん」
そう呻くような言葉を吐き出すだけで、何も言おうとはしない光。しかし、すぐに表情を笑顔へと戻すと、
「まあ、グダグダ考えててもクエストは終わらない訳だし、とりあえず、出来る事はやってみようか」
そう言って、要、葵へと視線を向けた。
北の大陸へと渡る船着き場まで道中の町はあと四つ。




