【一】
城下町まで下りて来た四人の先頭を歩いていた要は、一度立ち止まり、
「お姫様のおかげでお城からは無事に出られたけど」
そう言いながら振り返って、先程まで自分達がいた天守閣に目をやる。
話の流れで今井宗久という商人について調べることになったのだが、一度捕らわれていた自分達がそのまま城に入り浸り、宗久についての情報を集めるというのは流石に出来ず、とりあえずという形でここまでやって来たのだが、
「その今井さんという商人について調べるクエストは城の中にいた方がやりやすかったですよね?」
要の言った事に被せる様にして葵が口を開いた。そして更に、
「報告する時もまたお城に忍び込まないといけないっていう風になると面倒ですし」
自分達を牢獄に閉じ込めた関係者がウロウロしている城内に再び招かれるという事は、まず無い事であろう。もう一つ言ってしまえば、この城下町でさえ関係者に見つかる可能性もあるわけで、
「まあ、どうするかは、どこかの店の中に入って考えるか」
光が言うと、葵、要に続いて五右衛門までもがその後を追って行く。
当然最後尾から一つ前を歩いている要ならば、自分のすぐ後ろに誰かがついて来ているという事に気付いてもおかしくないはずなのだが、五右衛門について一切触れない。もしかすると、本当に気付いていないだけなのだろうか。
四人は目抜き通りの中央に位置した大きな飯処の暖簾をくぐって店の中へと入って行った。
店の一番奥に位置している座敷へと案内されると、何事も無いように四人がそれぞれの順番で履物を脱いで上がって行くのだが、光が一番最初に座敷に上がった為、必然的に奥へと押し込まれる様に進み、その次に葵が入る。光の正面に要が座り、最後に五右衛門が座敷に上がって来たのを見て、
「あれ?五右衛門さんも来てくれたんですか?」
驚いたように光が言った。その言葉自体が五右衛門にとっては意外だったようで、
「いや、そんな大した事じゃないんだが、姫様から聞いた話が本当だとすると、お前さんらがあそこに閉じ込められた原因は俺にもあるみたいだしな?それに今井宗久については俺の方が良く知ってると思ってな」
「それは本当に有難いです」
光は頭を下げながら言ったが、すぐに顔を上げて、
「それで、その今井さんなんですけど、人を操る術とかそういうモノを持ってる人なんですか?」
光の頭の中には、あの城の殿様の様子がおかしくなってしまったという姫の話があった。仮に今井宗久という商人が城に出入りをし始めてから様子がおかしくなったのだとすれば、そういうモノを使ってやっている可能性は大いにある。しかし、
「俺が見た限りでは、普通の商人プレイヤーだったと思うが、他人の技能まではどうなってるか分からんからな」
質問が空振りに終わって肩を落としているかと思いきや、
「今井宗久っていうのはNPCじゃなくて、プレイヤーなんですか?」
光の驚いた表情がそこにはあった。それに押されてしまったのか、五右衛門は少しだけ体勢を後ろへとやると、
「ああ、今井宗久という号を得た商人をメインでやっているプレイヤーだ」
それを聞いてしばらくの間、光は黙り込んでしまう。
心配そうに顔を覗き込んだりしていた要と葵ではあったが、五右衛門を交えての雑談がダラダラと始まり、特に大したこともない話をしていたが、
「プレイヤーがゲーム内のNPCをどうこうする事って可能なんですかね?」
意外に盛り上がっていた雑談が光の発した一つの疑問で静かに切り裂かれた。




