↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/296

【一】

 白を基調に作られただだっ広い部屋。その天井には少々お金を掛けて付けられているであろう電飾と雰囲気で付けられたのかシーリングファンが心地よい風を運ぶ為に優雅にくるくると回っている。その眼下にはお昼過ぎとなり徐々に集まってくる人影が多く見える。

 楽しそうに会話をしながら列に並び、食券を買っては再び列に並ぶ。そうここは食堂だ。帝王産業株式会社の自社ビル二階に作られた社員たち癒しのスペースには今日も人がごった返していた。

 そんな広く作られた部屋には一定数の柱という物が当然必要になる。その柱の陰に隠れるようにして今日もB定食に舌鼓を打っている男が一人いた。


 彼の名前は柴田光一しばたこういち。この会社に勤める社員の内の一人である。

 頭を掻く癖があるせいか、寝癖は毎朝しっかりと直して来ているにも関わらず、お昼ご飯を食べる頃には髪がボサボサになってしまっており、近眼矯正の為に掛けられたレンズの厚い黒縁眼鏡は、近頃のアイウェアと呼ばれるファッションアイテムにはどう考えても見えない。


 そんな彼が座っている柱の陰。そこから見える光景と言えば、笑顔溢れる空間で食事をするリア充社員たちの賑やかさ、そしてこちらには見られない華やかさであった。


しばらくすると、柴田の隣に別の男がやって来る。

「何をそんなに一生懸命見てるわけ?」

 トレイをテーブルに置きながら馴れ馴れしく話しかけて来たのは、柴田の同僚、同い年で同期入社と何かと『同』の字が付く間柄の中道要なかみちかなめだった。

「いや別に一生懸命では無いけど」

「あ、見てたのは否定しないんだ。またこの前のあれ?」

 言いながら腰を下ろして、

「社内カーストがどうのってやつでしょ?」

 数日前に、ひょんなことから少しだけ盛り上がった話を持ち出した。


 学生時代に目撃、もしくは体験した人も多いのではないか。所謂いわゆるクラスのピラミッド。その頂点に君臨しているのが大体クラスでも中心人物になっているイケてる男子とその友人や取り巻き。そのすぐ下にはそのイケてる男子に好意を寄せているイケてる女子が続き、なんやかんやあってイケてない男子が一番下に位置しているというアレだ。まあ、学校で行われているのはスクールカーストと呼ばれているらしいが、ここは会社の中なので社内カーストになるわけだ。


 中道は柴田からの返事を待たずに丁寧に両手を合わせる。

「いただきます」

 割り箸を上手に割って、右手奥に置かれているお茶に二度浸す。

「今日のB定食も美味しそうだ」

 大皿に乗った鯖の塩焼きに箸で少しずつ切れ目を入れていく。言葉を交わすと軽く見られがちだが、箸の使い方など、細かい所作は実に落ち着いていて育ちの良さというか、年寄り臭さをどこか感じさせるなと柴田はいつも思っていた。


「まあ、僕もあそこには入れないな」

 鯖を味わった口がそう告げた。

 それは先程まで柴田が見ていた一際盛り上がりを見せる社内グループであった。

「別に良いんだよ?別に良いんだけどさ、お昼休憩であそこまで盛り上がれるっておかしくない?」

 柴田もそれには同意をせずにはいられなかった。

「学生がそのまま大人になるとああいう風になるんだろうな」

「お、自分は学生から社会人になってますアピール?」

「いや、そう言われると学生の頃からこんな感じのような」

 柴田は、箸を一度食器の乗ったトレーに置くと、自分の学生時代を思い返してみた。

 高校での昼休みは一人自分の机で黙々と母親の作ってくれたお弁当を食べ、回りで机同士を並べ合ってワイワイと騒ぎながらお昼をしている同級生をボーっと眺めていた。

 今、この状況と何も変わっていないのだが、それ以外でも充実した学生生活が送れていたかと問われれば、頭に疑問符が七つほど並んでしまうかもしれない。何かに打ち込んだとか何かを成し遂げたという思い出が全く浮かんで来ないが、それが自分らしくもあると彼は思った。だから、

「まあ、今のポジションで不自由は無いから文句も特に無いけど」

 呟くと、

「同じく」

 と、中道が続いた。


 柴田が焼き鯖と同じ皿にひっそりと置かれている大根おろしに軽く醤油を掛けていると、

「で、来週からゴールデンウイークだけど、何か予定とか無いの?」

 相当熱いのか、熱いのにビビっているのか、湯飲みに近付ける唇が中々お茶と接触しない中道は、一瞬飲むのを躊躇ためらって話し掛けて来た。

 一カ月位前からやたらと電話に実家からの帰省の催促の連絡が入っていたりもするのだが、

「いや、何も無い」

「そっか、それも同じだ。今年は何日間あるんだっけ?」

「土曜日から始まって一週間分だから、九日間かな?」

「有意義に使わないとね」

 柴田は、つい最近似たような事を聞いたなと思ったのだが、つい四カ月程前に年末年始の休みに入るという話をしていた時に中道が呟いた言葉だった。だから、

「休みに入る度にそれ言ってるけど、大体終わった後に俺は一体何をやってたんだ。みたいな事言ってる」

「自覚はしてる。というか、自分自身が一番良く分かってるっての。でも、そう言ってさ、一緒に旅行とかどう?って誘っても――」

「ゴールデンウイークなんてどこに行っても人ばっかりだから嫌だ」

「って、断るじゃん?」

 これも大型連休前の風物詩だな。なんて思いながら柴田は味噌汁にゆっくりと口を付けた。

 しかし、定番化しつつあった話の流れに今日は少し違った要素が加わった。


 口の中に広がるワカメと豆腐と味噌の三位一体となった食のハーモニーを柴田が静かに楽しんでいると、肩口を指先でちょこんと小突かれる。何だよと思いながらも首を向けて中道の方を見ると、何も言わず顎で前方を差す様にしながら、『あれを見ろ』と、言わんばかりにしゃくり上げて来る。

 そこには当然、先程柴田が見ていた盛り上がっている社内グループ一行がおり、相も変わらず未だに何かの話で盛り上がっているようだった。

「何?日本史の話か何か?」

 耳を傾けて聞いていると、時折戦国武将のような名前が聞こえて来る。何を隠そう柴田自身も同じ苗字の有名人と言われてパッと思い出せるのが戦国武将かその昔、国民的刑事ドラマに出ていた俳優の二人なのだ。

「確かに戦国武将の名前とか聞こえて来るけど、ゲームの話をしてるっぽいね?」

「ゲーム?」

17.04.15 誤字修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。