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64◆決着――決断


 悪竜を倒すと大爆発が起きるそうです。

 しかもちょと吹っ飛ばされるだけでなく、付近一帯が山ごと更地になるくらいの超威力だとか。

 そんな話をぽろっとペリちゃんがしてしまったから……というわけではないのだが、実のところ俺は、悪竜ファブス・レクスを倒してしまってよいものか悩んでいた。

 

 大爆発自体は『まあ、なんとかなるんじゃね?』と、いつものように楽観している。要は爆発に巻きこまれないうちに逃げ出せばよいのだから、タイミングが難しくあっても無理じゃないと思う。

 

 ただ、どうやら俺は相当な天邪鬼あまのじゃくのようで、

 

 ――〝我〟を、救って(殺して)くれ……。

 

 アケディアが最後に残した言葉が、ずっと引っかかっていた。

 『殺してくれ』と言われて、『わかった任せて』とは軽々しく応じられない。

 だってあれはアケディアの言葉であると同時に、悪竜ファブス・レクスの本心であると思ったからだ。

 

 悪竜あいつは、ずいぶんと悪いことをし続けてきた。

 なんだかよくわからない理由で悪堕ちし、『絶望』を集めなければ立ち行かなかった事情があるとしても、きっと許されることじゃないだろう。

 

 でも、あいつだって相当苦しんだ。

 あいつに罪はあるだろうが、同時に償い続けてもいたのだと思う。元神様だろうが何だろうが、どうにもならなかったに違いない。


 『死』ですべての罪が贖えるだろうか? そもそも俺に悪を裁く権利があるのか?

 そんな小難しいことを考えもした。

 

 でもまあ、けっきょく。

 

 俺は俺の都合で悪竜が邪魔になり、倒そうと決意した。

 今回だって俺の都合――『なんとなく嫌だから』で、悪竜を殺したくなかったのだ。

 

 残念ながら、悪竜を殺さずに問題を解決する方法はなかった。あいつに一度は死んでもらわないと、俺の仲間たちが死んじゃうのが一番の問題。

 けどいろいろ調べていたら、『完全なる死』を回避する方法に俺は至る。

 

 ――転生。

 

 死してのち、新たに生まれ変わること。

 神様は自らを転生させることはできないが、神を転生させる方法は存在した。

 

 うん、ものすごく苦労したよ。

 世界の隅々まで情報を掘り起こし、どこぞの神様の頭の中を覗いたりとかね。おかげで俺の体は決戦前にボロボロでした。どうにかはしたけど。

 

 さて、方法が見つかったのなら、実践あるのみ。

 第一段階としては、悪竜自身が『転生する気になること』。そのためには俺が宿す予定だった『悪竜の瘴玉』――あいつにとっての『希望の心』を返す必要がある。

 俺だけ命を賭けないのは申し訳なかったが、そこはみんなにも納得してもらった。

 要は、成功させればいいのだから。

 

 

「お前はお前自身が育んだ〝希望〟を抱き、俺という希望に縋れ!」



 白色の玉を、悪竜の本体――額に埋まっていた七色に輝く光玉に押しこんだ。


 でもこれだけでは足りない。〝希望〟を取り戻したとしても、こいつは半信半疑で希望を見いだせていないのだ。

 さあ、ここからが勝負だ!

 

「よし、準備はOK! カモンだウーたん(・・・・)!」


 呼びかけに、俺の頭上でぱっと光が生まれたかと思うと、


「はっはっは、呼ばれて飛び出た妖精王とはもちろん、余だよ☆」


 セクシー&グラマラスでエッチな格好をした美女が現れた。背中にある透明な翅をぱたぱたさせることなく、空中に浮かんでいる。

 妖精王ウルタ。悪竜の封印が解けたのを受け、彼女の縛りも解け、この場に姿を現せたのだ。

 

「そっちの準備は大丈夫なんだよね?」


 もはや俺もタメ口である。

 

「うむ。余としては面倒事にかかわらず高みで見物していたかったが、介入するのもそれはそれで面白そうだったのでな。とはいえ、ギリギリまで悩んだ。余が悩むなど片手の指で事足りるほどしかなかったが、それはもう生涯最高レベルで悩みまくった」


「うん、まあ、そうだね……」


「なにせあやつ(・・・)を解き放たねばならぬのだからな。以降の責任は、すべてそちに押し付ける。本当に後はなんとかしろよ☆ 余は知らないから☆」


 ちょっと背中がゾクッとしたけど、後悔はしないと決めている。俺は大きくうなずいた。

 

「その覚悟、しかと受け取った。骨は拾ってやるからな☆ しゃぶり尽くされろ☆」


 不吉な発言をしたウーたんは、ぱちんと指を鳴らす。

 するとまたも空中で光が弾け、

 

「呼ばれて飛び出てぱんぱかぱーん♪ 死と再生と破廉恥な女神、ヘルメアス・メギトスちゃんでーすっ♪」

 

 自己申告に偽りなし。ウーたん以上に破廉恥な痴女さんが現れた。

 この女神は際どい単語を積極的に拾ってセクハラにつなげるので、俺はひと言もしゃべらず、ハンドサインで指示を送る。

 

「ん~、なになにー? 『一発やらせろ』? いやーん、勇者って野獣ー♪」


「泉に送り返すぞ」


「あ、女神を脅すんだ……。うん、目がマジだね。とりあえず、おふざけは後にするから許して。ね、ね?」


 どうやらこの女神、マウントを取られるとペースを乱すらしい。今後に役立つ情報を仕入れたのは幸運だ。

 この二人がそろって案の定、緊張感が崩壊しかけたが、俺が挫けるわけにはいかない。

 

 さて、『死と再生』を自称する女神ヘルメアスではあるが、こいつ自身には『転生』を成し得る力はない。そもそも神が神を転生させることが不可能なのだ。

 

 ではどうするか?

 

 ヘルメアス自身にその力がなくとも、彼女の加護を受け、不思議パワーを宿したものであれば――。

 

「はーい。じゃあ、ここからは真面目にがんばっちゃうねー」


 ヘルメアスが手をパンパン、と二回打つと、またまた空中に光が生まれた。

 

「今度はお前らか!」


 パンツ一丁の男が二人。

 筋肉マッチョのおじさんとイケメンの優男は現れるなり俺にバチンとウィンクをかまし、手に手を取って空中をぐるぐる回り始めた。

 彼らが描いた円から、ドバドバと清らかな水が降ってくる。

 

 おそらく俺と同様、呆れて物が言えなかったであろう悪竜ファブス・レクスに語りかける。

 

「これは『妖精の泉』の水だ。これを浴びた状態で死を迎えれば、お前は転生できる」


 俺は片手を挙げた。

  

「決めるのはお前だ。俺たちはその決断に文句は言わない。でも――」


 罪を償う気があるのなら、との言葉は飲みこんだ。

 こいつには、もう何も背負わせない。仮に自爆を選んだとしても受け入れよう。二人の女神と妖精王がいれば、ギリギリ全員が逃げおおせもできるだろう。

 

 だから俺は、にっと笑って言った。

 

「安心しろ。転生した後の面倒は、俺がちゃんとみるからさ」


 ずぶり。

 

 俺が挙げた手を下ろしたのを合図に、風の道を駆けてきたマリーが、ドラゴンキラーで七色の光玉を突き刺す。

 

 けっきょく、ファブス・レクスは何も答えてくれなかったけど。

 

 

『感謝する、当代にして最後の勇者、メル・ライルート』



 アケディアの柔らかな声が、聞こえた気がした――。

 


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